05. 艶やかなる舞を双眸に映したもうて
「おい。」
「…。」
「なあって。」
「なに?」
「今のは明らかにマズイんじゃないのか。」
「そうね。」
「いや、そうね、じゃなくてだな…。」
「言ったでしょ。まず話してみなくちゃ始まらない、って。」
「その結果が強行突破ってのはどういうことなんだよ…。」
「簡単よ、ゼロ。少し頭を使いなさい。普通にアプローチしたら話をできる場が持てないからこうしたまで。」
「はあ?娘なのにかよ。」
「研究者にとって娘がどうとかは何も関係がない。」
「ふう。お手上げだぜ。バルミー、なんとか言わないのか。」
「言っても無駄なら言わないよ。」
「なるほどねぇ。で、このあとは?」
「アンノウンは賢いわね。お父さまが所長なら確実にこれで出て来る。あまり手荒にされないようにだけ気をつけるしかないかなって。」
「はあ…。お嬢様方、ずいぶん悠長というか、肝が座ってるっつーか、恐れ入ったぜ…。」
「あら、お褒めに預かりまして光栄ですわ。」
「驚くほどのポジティブシンキングだな。呆れるを通り越して見習わなくちゃいけないと思うよ。」
「で、アンノウン、実際貴女この所内の見取図とか頭に入ってたりするの?」
「いえ。幼い頃に何度か来たことはあるはずなんだけど、まったく覚えてないわ。」
「それじゃあ優雅に所長を探すとしますか。」