Grim Saga Project

02. 高貴なる佇まいは何を醸し出す

 
 
 
「夕心、お前最近なんかおかしくないか?いや、まあ元々おかしいんだが。」
 
「いきなりすごい言われようだな。まあ否定もしないんだが、理由は?」
 
「こうしてメシでも食ってりゃ割と普通だけどな。たしかに今のお前の研究所っつーか、研究者たちはちょっとこう異様な雰囲気かもしれん。たまに近くを通るが、一様に顔を伏せて暗い。あれじゃ怖がられる。」
 
「佳境なんだよ、研究が。みんなピリピリしてるし、集中もしてる。余裕もない。樹のとこだって、大手術でも入ればそうなるだろ。」
 
「うーん、張り詰めはするけど、あそこまであんな風になるかなあ。」
 
「本当は俺も食事なんかしに来てる場合でもないんだが、そういやお前も最近あまりいい噂を耳にしないなと思って。院長先生、ロクに病院にいないらしいじゃないか。」
 
「ああ、それはそうだな。立場上、もう執刀に当たるようなこともほとんどないし。」
 
「オペをしないからといって、病院にいない理由にはならんだろう。」
 
「お互いどうも一筋縄じゃいかない状況ってことみたいだな。」
 
「なんだ。俺よりよっぽど黒か。人のこと気にしてる場合か。」
 
「んー、まあ、ちょっとした気まぐれみたいなもんさ。一度そうなっちまったら、そうそう、はい、平和な日常を取り戻しました、ってわけにもいかないだろ。」
 
「懺悔でもしとくか?聞いてやらんこともない。蛇の道に足を踏み入れた者同士ってことで。」
 
「いや、ごめんだね。それに俺は懺悔するようなことはないさ。病院にいない理由なんて大したものじゃない。ちょっと趣味に興じてる程度のもんだ。」
 
「まあ、お互い無粋な詮索はしない方が良さそうだってことはわかったな。もういいだろう。」
 
「もし、あまりにも道を踏み外しそうなら頼ってこい。もしかして何か力になれる可能性はある。主に他の誰かには言えないような内容の場合に限るが。」
 
「ほう。ご忠告に感謝するよ。今日は戻るが、本当にもしかしたら、思っているより大事になっちまわないとは言い切れない。」
 
「歯切れの悪いことで。」
 
「まあそれもお互いさまってことで。」