01. 未だ見ぬ悠久の時は何を見るか
「松浪未久?」
「そう。近代科学の研究者として有名な若手だったんだけど急逝。その意思は今も引き継がれて研究は続いている。」
「まったく知らなかった。」
「まあ、有名って言っても科学分野の話だからね。一般にはそこまで浸透してないと思うからそれはいいの。で、その場所が水谷研究所。つまりウチ。」
「金持ちなわけだ。親父さんはそこの所長ってことか。」
「そうだよ。敬いたまえ。まあ、私のことじゃないので関係ないけど。」
「で、その松浪未久っていう偉大なる研究者がなんだって?」
「私の母親。」
「は?」
「だから。その松浪未久が、私の母親。」
「え?…な、えーっ!?」
「研究者としては旧姓で通してたみたいだけど、父と結婚して水谷未久ってなってたの。だから水谷研究所のホープでありエースとも言える立ち位置で、ばりばり論文とか出してたわけ。絶頂期だったと思う。突然亡くなった。未だに意味がわからない。突然体調を崩してそのまま数日で息を引き取った、って聞いてる。研究者なんて元々何日も家に帰らないなんてザラだから、幼かった私は異変を感じることもなく、体調を崩したさまも見ていないまま、ただいなくなってしまった印象なんだよね。」
「なんでそんなデリケートな話を?これまでの話とどう関係がある?」
「兄が同じようにいなくなっている。」
「ミライが…、いや、たしかにそうだな。」
「私も今更とは思ったけど、色んなことが重なって偶然とは思えなくなってしまったら、もうどうしようもないじゃない。…んー、正直さ、非現実的な話をしちゃってるのかもしれないけど、そんな事情だから私は母も兄も失った実感がないんだ。また会える気がしてる、って言ってもいいかも。」
「うん。」
「だから、手伝いなさい。乗り掛かった船でしょ。ってゆーか、この船運んで来たのアンタなんだから。」