Grim Saga Project

097 Epilogue of SM - 緑川瞬の終幕

 
 
 
まるで夢のような出来事だった。
姉さんの病気についての医者の見解や対応が納得いかないだけだった。
自分でどうにかしよう、なんて感覚、すべてを諦めていた僕にはほぼなかったもので、ただ姉さんのことまでこのまま諦めるわけにはいかなかった。
それだけのはずだった。

そういう生き方は思いのほか、視野を狭くしていたことに気がつくことができた。
何もかもダメだと思っていた僕を認めてくれる人がいることを知った。
一つの結び目がほどけると他も連鎖するように見え方が変わってくる。

中性的で小柄な容姿の弱々しい自分でもまったく気にならなくなった。
勉強も運動も人生もすべてはただのコンプレックスであり、今の自分を認めることで、どうしようもない先天的要因は受け入れ、ただの諦めが招いた努力の欠如による後天的能力不足はこれからの自分次第でどのようにでも改善できるのだ、ということを理解したのだと思う。

なんて簡単なこと。
なんて当たり前のこと。
頭でそれをわかることと、体験して感じて理解することはこうも異なるのか。
一日一日、一人一人、これまでに過ごした時間、接した人、たったそれだけのことを大事にするだけで別の世界が見えた。
事件は解決したし、籠様のミッションも無事遂行することができたが、それ以上の収穫があり過ぎて、もう言葉で表現することが困難なほどだ。

姉さんも籠様もユメカゴのみんなも、とても大切だ。
いくつかのことを決めた。

一つは大学に復学、もとより幽霊学生だったわけだし休学していたわけでもなく、ただ姉さんの"貴方は頭がいいんだから大学に行きなさい"という言葉に従い入学しただけでロクに通っていなかっただけなのだが、改めて勉強をしてみようと思ったことだ。
もちろん姉さんの病気に関する調査も継続しながらだけれど。

もう一つは凛のこと。
僕が色んなものの見方をして、考え方を大きく変えるに至った最大の要因と言える。
事件を通して彼女は深く傷付いたわけだけど、それを支えたいという気持ちと同時に、初めて姉さん以外の他者に好意を抱いていると気付いた。
もっと一緒にいたい。
もっと話をしたい。

事件後、時間が経つにつれその想いは膨らむ一方だ。
これまで時間などいくらでもあって、自分にとってはただの無駄なものだったけれど、今となってはこれ以上ない、いや姉さんや凛と同等程度には大事なものだったのかもしれないと思う。
失った時間をどうこう言っても始まらない。
今からの一分一秒を大切にすればいいだけだ。

大学で勉強して、姉さんの病気も調べるけれど、凛と過ごす時間が欲しい。
今までに感じたことのなかった欲望が一挙に溢れ出したかのような感覚である。
生まれ変わったのかもしれない。
姉さんは驚くかな。
死んでいるのと大して変わらない人生を送っていたことと比べれば何も怖くない。

あれから一週間ほどして連絡先を聞いておいた凛にメッセージを送った。
そこにはただ、会いたい、と書いた。