094 Interlogue 06
仏像前まで無事に戻れたのはリリルの指示のおかげだ。
どうにか燃えることなく進めた。
愛用の装束、フード付ロングワンピースはさすがにところどころが焦げ、無惨な状態であったが仕方ない。
仏像を調べようとすると、リリルがぴょこんとマシュマロ形態からウサギのような形に変わって、大きな仏像の後頭部辺りに飛ぶ。
数メートルはある仏像の首の後ろ辺りに穴が空いているのが見えた。
リリルはそこから中に入ると何かを加えてすぐに出て来た。
木の枝の形をした金属。
私の腕の中に戻ってくると、重い。
いつものリリルの何倍も重みを感じたが、そんなことを言っている場合ではない。
マシュマロ形態に戻ったリリルと鉄の枝を持って本堂入口から出ることができた。
「ふう、これが鉄の千年桜…。」
私がみんなにお願いした、鉄の千年桜を救うミッションはこれで無事達成したはず。
総動員とは知っていたけど、自分まで炎に飛び込むことになるなんて。
いやいや、いつもみんなにばかり危ない思いをさせているのだからこれぐらいはたやすい。
それに、そう、誰か一人でも死なせてはいけない。
特に先ほどのひどい火傷は、アップルさんの能力に依るもの。
あの方を死なせてはいけない。
守者としての私の力も最大限使ってどうにかしなくては。
炎は倉庫に留まり、本堂までは広がっていなかった。
緊急脱出したみんなと外で合流すると、予想外に驚かれてしまった。
どうしてだろう。
とにかく状況把握。
ナスくんが母屋の電話で救急車を呼んでくれたらしい。
しかし、時間が掛かるためこの嘉稜寺に続く石段の下まで降りておいて、迅速に搬送しようということのようだ。
ジャガーとナスくんで火傷の男性を運ぼうとしているところだった。
「ジャガー、ナスくん、ちょっと待って。」
私は二人に抱えられた火傷の男性の傍まで歩み寄った。
胸に抱くリリルに祈り、両手を合わせ、軽く俯き目を閉じる。
光を放ったリリルが、本来のペンダントの形態に戻り、私の首にぶら下がった。
ひゅるると風が巻き起こり、近くでいくつか渦を巻き、うねる。
被っていたフードがはずれ、私の細い猫毛がバサバサとなびく。
左手を火傷の男性にかざし、また祈る。
淡い光が男性を包んだ。
火傷が全快しないまでも、ひどくただれた肌が見るからに回復する。
これで命を落とすことはないだろう。