090 Episode SM 14 - 万事休す
自分でも意識が正常だったかどうかは定かではない。
それでも頭や身体の違和感を覚えつつ立ち上がった自分を自覚できた。
良かった。
これで死んでも構わない。
だから凛を止めなくちゃ、いや、助けなくちゃ。
おそらく自分が思うより自分の行動は愚鈍なのだろう。
いや、周囲の時間の流れが早過ぎるだけかもしれない。
いやいや、ダメだ。
こんなことを考えている場合じゃない。
みるみるうちに倉庫の火が燃え広がっている。
落ち着いて周囲の状況を確認する。
先ほど凛が両腕を真ん前に突き出した瞬間、二対の炎が放たれた。
それが鬼の形相の男の右腕と左足に直撃して、男は転がって悶え苦しんでいる。
しかし、そのおかげで火は消えたようだが火傷のダメージが酷いのか、男は動かなくなった。
倉庫の火は凛の腕から解き放ったものではなかったが、おそらくこのパイロキネシスは感情に呼応して発動するのだろう。
何個も凛の周囲から炎が上がったように見えた。
まずは凛を落ち着かせなくてはいけない。
両腕を突き出したまま、呆然としている凛に駆け寄って思いっきり抱き締めた。
「凛!…凛!もう大丈夫だ。落ち着いて、みんなを助けよう。」
「………。」
真っ直ぐに突き出された凛の腕に触れると驚くほど強張っている。
その両腕に触れ、ゆっくりと降ろしてやる。
大丈夫、落ち着け。
今度は自分に言い聞かせる。
凛の眼からぽろぽろと涙が零れ落ちる。
「大丈夫。凛、まだ間に合う。一人も死なせちゃダメだ。助けよう。」
「…っん、…は、はあ、…っう、…。」
「ほら、僕は大丈夫だ。もう怒らなくていい。光井さんもケガはしているかもしれないけどあれぐらいじゃ死なないよ。大丈夫。」
「う…、うぅ…、瞬、…う…、うん。」
ようやく凛が心を取り戻した。
抱き締めていた腕を緩めると、ふうふう、と大きく呼吸をし始める。
さて、どうするか。
凛が落ち着き始めたとはいえ、リミッターが外れてしまった自分が何をしたかはわかっているんだろう。
ショックが大き過ぎる。
オレンジさんと奥で倒れている四人、倒れている編集長が死んでいないことを望みつつ、生きているとしても計六人を二人で運び出すのは無理だ。
かといってこの火を消すことも難しいだろう。
パイロキネシスも透視もこの条件では役に立たない。
オレンジさんを起こしてテレポートをうまく使えばどうにかなるか?
何にせよ万事休すに思えた。
その時、二つのことに気がついた。
倒れているうちの一人、若い女性が目を覚まして動いている。
もう一つは、救いの増援だった。