089 Episode SM 13 - 変化と充足
盆と正月がまとめてやってくる、などと言うけれどユメカゴに入ってからは毎日がそんな感じだ。
今日なんて盆と正月どころじゃなくて、クリスマスもバレンタインもハロウィンもまとめてドンと来い、ぐらいの気分になる。
それぐらい初めて尽くしだった。
もしかすると、周囲で起きていることや仲間云々以上に、自分がこれまでの自分ではなくなってきていることに対して、自ら戸惑いながらも筆舌に尽くしがたい充足感のようなものを感じ取っていたのかもしれない。
動揺したオレンジさんを落ち着かせたのも狙い通りだった。
たまたま唇が触れてしまっても自分は落ち着いていた。
気持ちが穏やかなのだ。
なんだ、自分はちゃんとできるじゃないか。
心乱されずに判断したことは、ここまで客観的に見ても主観的に捉えても、比較的最善に近かったのではないかと思える。
そう感じて良いのだと思えるようになったのは、凛の力が大きいことも自覚していた。
だから、狂った男が一瞬後ろの凛を振り返った時も迷わずに飛び掛かることができた。
非力かつ能力も戦闘向きでない自分が何かできるとしたら、隙を突くぐらいのことしかないとわかっていたから、その隙が生まれるのだけをずっと待っていたから。
誰かにしがみついたのも、ボロクソに殴られたのも、初めてのことだったけど、気分は悪くない。
やれることすらやらずに生きてきた自分が、こんな風に行動していることが少し誇らしい気持ちがないと言えば嘘になる。
しかし、しこたま殴られた頭から肩口に掛けて、痛いと言うよりは違和感を覚えていた。
死ぬならそれでも構わない。
姉さんを救えないことだけは心残りだけど、精一杯やれることをやってダメで終わる、なんて今までに考えたこともなく、そうしてみて初めてその清々しさを味わっているのだ。
凛を止めたかった。
オレンジさんも痛そうだったけど、きっと大丈夫だ。
ほら、僕もまだこんなにピンピンしている。
だからそんなに怒らないで。
いや、止めなければいけない。
凛が両手に炎を掲げ、さらに周囲にも熱気を纏い、あちらこちらでも発火している。
まるで凛の怒りがそのまま形になったようだ。
実際そうなのだろう。
ここで凛を殺人者にしてはいけない。
僕は立ち上がった。