086 Episode RF 07 - 不意の呼び声
どこだ。
母屋、長屋、本堂、または小道の奥。
思いの外、広い嘉稜寺の敷地だが、これだけの大声で呼んで聞こえないということもないだろう。
こちらの呼び掛けに対して、すぐには返答がない。
オレンジとキューちゃんは嘉稜寺に戻ってから大して時間が経っていない。
さっきだって電話を掛けてきたばかりだ。
何が起こってやがる。
ちくしょう。
…焦るな。
考えろ。
「ジャガー、あたりをつけよう。」
「あたり?」
「何かが起きてる。二手に分かれるのは得策じゃない。何かが起きた場所かモノにあたりをつけて、ジャガーの能力で視て。」
「乱発はできねぇが、しょうがないな。やるしかない。」
「うん。」
「とりあえずお互いに一つずつ、あたりをつけるための推理をお披露目だ。こんな時ほど焦らずに行った方がいい。」
「ジャガーのサイコメトリはそのモノ自体が強い思念のようなものを抱いていないと見えないんだっけ?」
「よくはわからないがそんな感じだとは認識してる。大体は三つのパターンに分類される。ハッキリ何かが見えるケース、ぼんやり何かが見えるケース、何も見えないケース。」
「それでも思念の強さに依存しているかどうかわからない理由は?」
「その三つのパターン以外またはその間に該当するようなケースが見当たらないから、むしろ別の要因で分類されているんじゃないかと思ってる。」
「なるほど。読み取れるパターンで多いのは?」
「それがわかりゃ苦労はない、というか、あればこの状況だ。先に伝えるさ。」
「あたりのつけ方が難しい。」
「なんとなくの感覚でしかないが、読み取るモノが比較的新しいと成功した試しがない。色々試してはいる。」
「歴史が浅い分、何らかの想いを宿してない可能性が高いってことなのかな。」
「あ、もう一つある。成功する場合だ。読み取る前に大体わかる。」
「え?どういうこと?」
「うまく言えないが、ハッキリ見えるケースだと、そのモノ側から呼び掛けられるような感覚に捉われる。実際に呼び掛けられているのかどうかはよくわからない。」
「じゃあ、私たちが推理のお披露目をするより、その呼び声に耳を傾ける方が早くない?」
「こちらから聞こうとして聞けた試しはないんだ。もちろんそれも色々試してはいるが。」
「なるほど。…ってことはやっぱり推理したほうがマシかなあ。」
「…。」
「…ん?…ジャガー?」
「アップル。」
「ん?」
「呼ばれている。スペシャルなタイミング過ぎて信じられないが。」
「どこ!?」
本当にすごいタイミングだ。
声の発信源は本堂だった。