079 Episode RF 06 - 不穏の沈黙
スマホがなった。
かわいらしい音だし、聞き慣れない着信音で、キョロキョロするとすぐにアップルがバッグからスマートフォンを取り出す。
「もしもし。…え?あ、うん。うん。…どういうこと?ううん、わかった。すぐ行く。」
ちょっとしたやり取りだったけれど、不穏な何かが起きたことはわかった。
電話の相手はオレンジかキューちゃんだろう。
「みんな、申し訳ないけど一度嘉稜寺行きたいの。どうしよう。」
「落ち着いて。凛、何があった?」
「嘉稜寺に誰もいない。」
「え?」
「瞬から電話で、誰もいない、って。住職も、編集長もアシスタントさんも。」
ペアが全員で戻ることを提案する。
必要な買い出しも重要だけれど、今メンバーを分けたところで買い出し班は気が気じゃなくなる。
いい判断だ、と思った。
誰も異論を唱えず、すぐに踵を返す。
道すがら、カメラマンの有原円が口を開く。
さすがに階段を走って登り切るのはキツいので、全員で歩いていたのだ。
「でも、どういうことだろ。どういう可能性があるのかな。」
「うーん、二人が知らないどこかをみんなで見に行ってる、ってのが一番あり得るんじゃない?」
「でも瞬は大声で呼んでみた、って言ってたよ。」
「あ、私なんとなくさっきそれ聞こえたかも。」
「あ、ラムも?俺もそれっぽい声を聞いた気がする。」
「階段下まで届く声だとしたら、相当大きな声で叫んでみてるよ。それで聞こえない場所なんてある?」
「しかも住職は目が不自由だから、凄まじく耳がいいはずだ。」
「じゃあ、それ以外だと?」
「聞こえても答えられないのだとしたら、それってどんな可能性だろう?」
「または聞こえない可能性。」
「ああ、例えば蔵のような声の届かない場所があるとか?」
「お腹下してすぐに対応できないだけ、とかは?」
「三人まとめて、ってことはないだろう。」
「ああ、そうか…。」
「最悪の事態...とか。」
「とにかく急ごうか。考えてもわからないことだから。」