078 Episode SS 06 - 陰
急に騒がしくなった。
取材の依頼に若者たちのお寺体験。
一度に10人を超えるような人がここを訪れるなんて、滅多にない。
普段は参拝客だってまばらだし、声を掛けられるにも大した人数ではない。
偶然だろうか。
こんなに珍しい出来事が重なったことを単なる偶然と片付けるにはどうにも釈然としない。
目がロクに見えない生活に、だいぶ慣れては来たけれど、大人数を相手にするとやはりコミュニケーションが難しい。
普段、視覚と聴覚から得る情報を合わせて、人間は頭の中を整理しているのだということが、視覚を失ってよくわかる。
取材メンバーのうち、カメラマンの女性とモデルの女性、あとモデルの助手の男性が買い出しに行ってくれた。
体験で泊まり込んでいる若者二人も一緒だ。
残っているのは、編集長とアシスタントの二人。
先ほど連絡があり、取材メンバーがもう少し増えるそうだ。
…などと、頭の中を整理し直す。
「こんにちはー!」
新しい取材メンバーだろうか。
電話が来てから到着が早過ぎる気はするが。
気配は二名。
話を聞くと、やはり取材関係者だと言う。
多少の不自然さを感じつつ、編集長さんに通しておけば良いだろうとも思う。
どうぞこちらへ、と編集長とアシスタントの待機する部屋に二人を通す。
「こんにちは。私、モデルの友人です。今回の取材のお手伝いに参りました。」
「ああ、こりゃどうも。ラム君の知り合いね。さっき電話があった。あれ?でも男の子と女の子って聞いてた気がするけど…。」
なんとなくやり取りがぎこちないと感じた。
なんだろう。
異様なまでに不自然な気がする。
私は得体の知れない不安に襲われる。
話している二人とは別の二人の気配も何かおかしい。
何かこう、焦っているような驚いているような。
そして、それとは別になんだか不思議な懐かしさのような安心感のような気持ちも湧いてきている。
不安とは明らかに真逆である。
私自身どう受け止めればいいかよくわからなくなっている。
不穏な空気に飲まれぬよう、気持ちを落ち着けて、茶を淹れることにした。
何が起きたのかわからない。
もう見逃せないほど、危険な音に変わっていく。
次の瞬間、私は身体を拘束された。
見えない目を隠され、猿轡を咬まされ、腕と足を縛られる。
目が見えない、というのはこんなにも弱いのか。
悔しいが、抵抗してもどうにもならない。
極力、状況の把握と、被害を拡大しないことに努めることにした。