073 Episode MS 07 - 芝蘭結契が始まる

　
　
　
長いこと夢と現実を行き来するような毎日だった。
私は時に叫び、暴れ、苦しみと戦い続けた。
事件からしばらくはどうにか夫・秀川が私を支え、その間に身籠っていた娘も生むことができた。
娘の誕生は私の拠り所だったが、心に潜む闇は消えない。

私は入院することになった。
精神科だという。
客観的に見て、私は異常なのだろうということがわかる程度の理性は残っていた。
というか、落ち着いている時にはそれぐらいのことはわかるのだ。
時折脳裏に襲い掛かる殺された二人の顔、恐怖の映像。
名も知らぬ殺人者。
血の海。

人間とは強い生き物らしく、あれから長い時を経て、ようやく私はその苦しみを最小限に止めることができるまでには制御ができるようになった。
必ず週に一度訪れる夫・秀川との会話も平穏そのもの、看護士さんに当たるようなことももうない。
長くベッドの上で生活していて、歩くこともままならなかったが、最近やっと散歩が少しできるぐらいにはなってきた。

もしかしたら、普通の生活に戻れるかもしれない、と思うと娘への想いも募る。
今あの子はどんな風に育っているだろう。
狂人の母などいない方がいい、という思いから一生会うまいと決めていたが、最近少しずつ揺らぐ。