Grim Saga Project

071 Episode RA 09 - 役者が集う

 
 
 
瞬のことは一歩前進。
肝心のミッションは、それに比べるとまだ半歩ぐらいかもしれない。

嘉稜寺事件と呼ばれる昔の事件について調べては来たけれど、それが鉄の千年桜とどう関係があるのかもわからない。
私たちが得た情報に意味があるのかどうかもわからないまま、一旦みんなと情報を持ち寄ることにした。

嘉稜寺がまた行きづらい。
駅からは遠いし、バスの最寄の停留所からもだいぶ山道を歩くそうだ。
瞬と話した結果、一度バスの停留所から歩いてみることになった。
タクシーで近くまで行ってもいいけれど、結局何百段もの階段を上ることは回避できそうにない。

そんなこんなで無言で一時間近くも歩き、ようやく石段の麓まで辿り着いた時である。
上から人が降りて来た。
…五人だ。
しかも、見たことのある顔ばかり。
一人だけ知らない女性がいる。

ジャガー、オレンジ…、あとの二人のユメカゴは、まだ瞬は会ったことはないかな?
いや、そんなことはない。
一人は、私たちと瞬を会わせた張本人だったはずだ。
もう一人の男性、ナスくんは会ったことはないかもしれない。

さて、どうする?
メンバーだけならやっほーでいいところだけど、残りの一人の素性がわからない。
そもそも別行動していたはずの、ジャガーとオレンジの二人が、他の二人と元々知り合いだということを、ユメカゴでない女性に伝えているのかもわからない。
瞬は頭がいいので、同じ疑問にとらわれているはずだ。

「やっほー!」

「え?」

「凛、瞬。来たのね。」

「あ、うん。」

「紹介するね。こっちの作務衣の二人は、嘉稜寺で生活体験中の深水さんと光井さん、でこの美しい人が今回私を撮ってくださるカメラマンの有原円さん、でぬぼーっとしてるのが私の助手の尚都くん。」

おいおいおい、とナスくんがぼやいているのが聞こえるが、なるほど。
些か説明チックだけれど、これでわかったし、さすがはモデルのラム、うまいこと自然に振る舞うものだ。
有原円が口を開く。

「えーっと、こちらは?」

「私の友人で、赤石さんと緑川くん。嘉稜寺で撮影があるから良かったら見に来てみない?って声を掛けてたの。ホントに来るか、いつ来るかわからなかったからみんなに言ってなかったんだけど。」

「お邪魔はしませんので、よろしかったら見学させてください。」

「ええ、私は全然構わないけど、…キミ、男の子?すっごい不思議な雰囲気ね。良かったら後で撮らせて!」

「え?僕をですか?」

「ええ。今までで初めて男性を被写体にしてみたいと思ったわ。直感的に。」

「ええ!?そ、それより、みなさん撮影なんですよね?一体どちらに行かれるんですか?」

「ああ、そうそう。泊りがけで撮影させてもらうことになったから、食糧を買って来るように住職にお願いされたの。…あ、そうだ。キミたち、何日か空けられる?」

アッと言う間に電話をして、私たちも嘉稜寺に宿泊させていただくことになった。
ラムの電話はどうやら編集長宛だったようだが、かなり強引に二名追加をねじ込んだように聞こえた。
私たちの意思も関係なく泊まりを勝手に決めたんだから、それぐらいお願いしてくれますよねー?ってな具合だったが、まったくしたたかである。

どうやら私と瞬の立ち位置は遅れてきた撮影アシスタントということになりそうだ。
それにしても、今のやりとりだけ見ても瞬の頭の回転には目を見張る。