069 Episode SS 05 - 目撃者の憂鬱
僕が美奈帆を見つけたのは、事件が起きた直後だったようだ。
久しぶりの実家嘉稜寺を、ひょんなことから訪れてしまい、寺の息子だということを明かさぬまま夜は更けた。
しかも一泊することになった。
上司の倉持は充てがわれた部屋へ入るやいなや、速攻で着替えて寝てしまう。
僕は親父と美奈帆の元を訪れた。
「いや、驚いたよ、色々。」
「驚いたのはこっちだよ。お客さんだって、でお父さんが一緒においで、っていうから行ってみたら秀くんがいるんだもん。」
「今日ここに来るまで知らなくてさ。倉持さんのお供で外出することはわかってたんだけど行先も用件も聞いてなかったから。」
「そうなんだ。」
「でさ、親父。今更改めて色々言わないけど、世襲以外にも寺を引き継げる話も、嘉稜寺が空峰の血筋でここまでやってきてたことも何も知らなかった。あえて言わなかった、ってことかな。」
「あえてということはないが、それを言うならあえて言うことをしなかった、とは言えるかな。どれを取っても寺を継ぎたくないお前に何のプラスにもなるまい。」
「まあ、それはそうだけど…。」
「秀くんはさっきの話を聞いても心変わりはしないの?」
「美奈帆さん、いいんだよ。」
「うーん、正直わからない。」
そんな話をして、成り行きで美奈帆と同じ部屋に寝ることになっていた。
床についてしばらくすると、隣で寝ていたはずの美奈帆の姿がない。
朝になる前に起きたのは、何か悲鳴のような声を聞いた気がしたからで、なんとなく悪い予感がした。
少し探すと、凄惨な光景と共に美奈帆を見つけた。
彼女は呆然と血の海の中に座り込み、その手には銀色の枝のようなものを握りしめている。
その傍らには、既に事切れていると素人が見てもわかる無残な状態の二人の人間が横たわっていた。