068 Episode MS 06 - 犯人と真犯人
そこにいたのは、藤重であった。
本堂の仏像を眺めている。
小さな声で独り言を言った。
"もうすぐ君の仇を討てる"と、私には聴こえた。
しかし、内容に反して不思議にその声は穏やかであった。
恐ろしかったのは、その藤重を背後からこっそり見つめるもう一人を見つけてしまったこと。
それは田村塔二、藤重の部下であるはずの男の横顔だった。
その光景を異様におそろしく感じた私は、冷静に努めて本堂を去った。
多分上手くいったと思う。
これで終われば良かったのに。
母屋に戻り高鳴る胸を落ち着かせる間もなく、二人も戻ってきた気配を感じる。
私は何か飲み物を飲もうと台所にいた。
何となく気付かれてはいけない気がして、照明を落として身を潜める。
隣の部屋は、先ほどまで全員で話をして、その後軽く晩酌をした居間だった。
襖を少しだけ開けて中を覗き見る。
またもや、藤重がそこにいた。
高い位置に据えられた神棚を見上げて恍惚とした表情である。
こちらに気付く気配はなさそうだ。
その両手がゆっくりと、祈りを捧げるように、持ち上げられる。
長身の藤重ならば手が届くだろうが、その手は神棚に触れることはなかった。
その仕草が美しく、私は恐ろしさも忘れて、見惚れてしまいそうだった。
しかし、その直後、どこから持ってきたのか太い木の枝を振り上げた田村がスッと部屋に飛び込んできて、藤重の後頭部にいとも簡単に迷いなく振り下ろした。
辺りに鮮血が飛び散る。
真っ赤な光景は、今この瞬間まで惚れ惚れと神棚を見ていた男の顔を強張らせ、鬼の形相の田村をより恐ろしく際立たせる。
何が起きたのかまるでわからず、ただ驚愕し、戦慄し、声を上げることもできない。
後から思えば、この時叫び声でも上げようものなら、それこそ私の命は今この世になかっただろう。
膝が笑うように震えた。
しかし、残念ながらまだ終わってはいなかった。
二度三度と藤重の頭が叩き割られ、見るに耐えない光景が眼前に繰り広げられる。
なんとその時、夢中になっていた田村の表情が突然豹変し、吹き飛ぶように倒れる。
藤重と並んで二人が倒れていた。
予期せぬ三人目が現れたのだ。
この人物は誰だかわからない。
見たこともない。