Grim Saga Project

064 Episode NY 06 - 集う色たち

 
 
 
寺。
正月ぐらいにしか来ないから、こう閑散とした寺社に来たのは下手すると初めてかもしれない。
緑が、木々が、葉を風で揺らして擦れる独特の音と自然に住まう生き物、主に鳥たちのさえずりや羽ばたき、そんな音が耳をつく。

何百段という階段を登り終えた達成感と、心地よい疲労。
不思議に爽やかな気分になっているところに、またラムがすっと寄ってきた。
何?…と聞く前に、電光石火のウィスパー。

「ここがターゲット。ユメカゴと合流する。意外な顔がいても知らないことにするのよ。」

意外な顔?
言葉の意味を理解する前に美しいモデルはもう遠く離れて、自然な距離感を保っている。
唯一、カメラマンの有原円だけが、やはりその刹那の接近をきちんと見ていた。
あれあれ?今度は何の死骸ですか?とでも言われるのかと、少し鼓動が早まったが、そういった無粋なことはなかった。
しかし、円は何かは感じただろう。
あとから、よっぽど何か言われて弁解できた方が楽だったんじゃないかという気がしてきた。

「さてー、坊さんに挨拶しとくかね。」

肩を上下に揺らしながら、間がえっちらおっちら歩き出したが、意外にも奥から出て来たのは二人の若者であった。
エラく似合わない感じがするが修行僧だろうか。
坊さんという感じもしないが、服装はそれらしい。
坊さんの服と言えば袈裟ぐらいしか知らないのだが、普段着っぽいのは作務衣(さむえ)というのだと後から聞いた。
意外に思ったのは自分だけかと思ったら、編集長の間もキョトンとしていた。

「あれ?あなたら、空峰さんとこのお坊さんですか?」

「いえいえ。私たちは一時的に嘉稜寺の生活を体験させていただいている一般人ですよ。」

「なんでまたその一般人がお出迎えを?」

「住職が、目が不自由なのに来客があると聞いていたので代わりにお迎えに上がりました。」

「なるほど。これはご苦労さんなことです。空峰氏には連絡を入れてありましたが、いささか慣れない山登りに疲れまして。ちょっと一息入れさせてもらってもいいでしょうか。」

「ええ、もちろん。お茶をご用意してあります。住職も一息ついてくださいとのことで。」

「そりゃ助かります。それじゃみんな、ご厚意に甘えて少しお邪魔しましょう。」