063 Episode MS 05 - 呪縛
私は生きている
。
今もまだ、生きている。
おそらく、本当はとっくに天に召されているはずだったのではないかと思う。
25年前に起きた凄惨な事件に深く携わってしまったことで、私の人生は大きく行き先が変わることになった。
私が関わってしまった事件は世間的・一般的には、嘉稜寺事件と呼ばれている。
亡くなったのは株式会社マスイノベーションの代表・藤重寿朗氏と取締役・田村塔二氏の二名だ。
あの日、現場に居合わせた私は殺人事件の目撃者になってしまった。
謎の会合で私の夫、清水秀川が上司倉持氏、藤重・田村の両氏と嘉稜寺を訪れた日の夜。
話が長くなったため、義父・秀山が空き部屋がいくらでもあるから、と客人全員への宿泊を勧めて承諾された。
質素とはいえ、空腹を満たす程度の食事を用意するのは私も手伝った。
風呂も全員が順番で済ませ、就寝に至ったのは日付が変わってからだったと思う。
都市開発の話、嘉稜寺の後継の話、少し入ったお酒。
多少なりとも、全員が何らかの興奮状態、または高揚感のようなものを持っていたのではないかと思う。
深夜3時。
私は何かの物音を聴いた気がして、何となく足音が立たぬように、長屋と母屋を行き来しながら様子を伺った。
特に異変はなかったけれど、それでも布団に戻らず、サンダルを突っ掛けて本堂まで散歩に出た。
少し肌寒かったが、まだ凍えるような季節ではなく、気持ち良い程度の気温。
本堂には同じようなサンダルが何足か。
あ、誰か、来ているんだ、と思った。
そこで私はなぜこんな夜中にこんなところに来ているのか、まで考えることはしなかった。
無意識に夫がそこにいるような気がしたのだろうか。
しかしそこにいたのは夫ではなかった。