061 Episode MH 10 - 迫る
結香のアルバイトは、どうやら鉄の千年桜を狙う何者かを監視して、入手を妨害することに繋がるらしい。
詳しくは話してもらえなかったけれど、重要な点だけ掻い摘んで聞くことができた。
情報源も明かされることはなかったが、確かな筋から、近日嘉稜寺を訪れる取材と撮影の一行に呪いの枝を狙う何者かがいることがわかっているのだそうだ。
結香は当初その話を知った時、呪いの枝などという不吉なものは持っていかせればいいと考えた。
「でも、ダメなの。呪いの枝を嘉稜寺から持ち出すと、不幸が起こる。」
「え?どういうこと?鉄の千年桜に纏わる過去の不幸は、結香の家から持ち出されることで起きている?」
「私自身はさっきも話した通り、それらの出来事が起きた時はまだ幼かったから、直接見たわけではないけれど、どうもそういうことみたい。だから、持ち出されることは止めないといけない。」
「結香、あなたまだ色々隠してるね。」
「全部は話せない。訳あって。ごめんね。」
「それはしょうがない。いいよ。でも、その訳に依る。」
「どうして私が何かを隠してるってわかった?」
「だっておかしいじゃない。鉄の千年桜を何者かが狙ってるって情報源には触れられない、結香ですら知らない呪いの発動条件についてまで話に出て来る。シンプルに考えたら、まず、あなたのお父様か、それに近い誰かはこの話に関係してないと成り立たない。」
「そっか。でも私にもわからないことが多いから、隠してるというよりは不確定だから言いたくないの。」
「なるほど。それじゃあ、情報源はどういうこと?」
「お父さんじゃない。わからないの。」
「どういうこと?」
「この情報は手紙で知ったの。お父さんは目がもう見えなくなってしまって、文字は書けない。」
「そうなんだ…。その文字に見覚えは?」
「うーん、私にはわからなかった。」
「どうしてそんな手紙の情報が信じられるの?」
「私とお父さんしか知らないはずの母のことが書いてあった。」
「鉄の千年桜を誰かが盗んだとして、その人が呪われても困らなくない?」
「呪われるのが持ち出した本人とは限らない。」
「でも一つわかったね。今の話が本当なら、鉄の千年桜の悪い方の力?呪いは、嘉稜寺から遠ざけることで発動するんでしょう?」
「あ、確かに。」
「結香はそっちのイメージしかないから、呪いの枝の印象がすこぶる悪いけど、世に知れているグリムの器の力はそんなんじゃない。きっと正しい使い方があるはず。それに、嘉稜寺から持ち出すと呪いが起きることにだって何か理由があるのかも。」
「理由なんてどうやって確かめるの?」
「うーん…。とっておきが一つあるんだ。」