Grim Saga Project

056 Episode SM 09 - クレッシェンドエメラルド

 
 
 
宿は凛が手配してくれたのだけれど、驚いた。
予算の都合上、という理由はわかるが、マンスリーマンションだ。
一つの住まいを二人で使う。
 
凛は嫌じゃないのだろうか。
籠様のお達しはそんなに絶対なのだろうか。
どう考えても僕はジャガーと、凛はオレンジと行動を共にするのが一般側ではないだろうか。
一つ屋根の下なのだ。
 
「え、私と同じ部屋、そんなに嫌だった!?」
 
「や、だから、そうじゃなくて、僕は姉とも暮らしてたし抵抗ないけど、凛が嫌じゃないの?って。」
 
「全然嫌じゃないよ。」
 
「そっか。」
 
「またそうやって、自分のこと悪く言うんだから。」
 
「あれ?」
 
「私が嫌だろうと思うってことは、自分のことをネガティヴな存在だと思ってるからでしょ。自分といたら嫌な思いをさせる、って。」
 
「ああ、そうか。そうだね。もうこの感覚については思考停止状態だよ。それが当たり前になってる。」
 
「ようし、その闇、私が取っ払ってやろうじゃない!」
 
「いや、いいよ。」
 
「どうして?」
 
「面倒だよ、簡単じゃないし。時間もかかるし、それは凛じゃなくて、僕自身がどうにかすべきものじゃないかな。」
 
「じゃあ瞬一人でどうにかできる?っていうか、そもそもするつもりある?」
 
「わからない。どうして凛はそんなに僕のことを考えてくれるの?僕のことなんてどうでも良くない?」
 
「良くない!」
 
「怒ってる?」
 
「怒ってない!」
 
「いや、えーと、ごめんね。」
 
「謝っちゃダメだってば。」
 
「う、難しいな…。」
 
「焦ってもしょうがないから、晩ご飯と明日のこと考えようか。私、これでも料理はそこそこできるんだけど、なんかちょっと買ってきて作る?」
 
「ん、でも僕は料理できないし悪いから何か買ってこない?」
 
「あー、またそういうこと言う。今日は絶対私作る!」
 
「あれ、また凛が気に入らないこと言っちゃった。」
 
「違うよ。私が気に入るとか気に入らないとかじゃなくて、瞬が自分のこと大事にしないで、人のことばっかり気にしてるのがイヤなんだってば。もう私、ミッションと並行して瞬大改造作戦もやっちゃうんだから!」
 
「ええ!?ミッションだけでも十分大変なのに。」
 
「それなら、早くもっとカッコイイ先輩になってくださいな。」
 
「わかった。考えてみるよ。」
 
「ホント!?」
 
「うん。」
 
その夜、凛は張り切って料理を作った。
なぜか手伝わされたけど、ただ待ってるだけよりは気が楽だった。
というより、なんだか慣れない作業なのに少し楽しかった。
 
ミッションに勝つからトンカツだって。
若いのに年寄りみたいな発想じゃない、それ、って思ったけど、さすがにこんなに色々してくれてるのに茶化す気にはならなかったので、黙って手伝った。
 
できたトンカツはめちゃくちゃおいしかった。