Grim Saga Project

055 Episode SM 08 - ターコイズトーク

 
 
 
そして僕は今奈良にいる。
名も知らぬ情報屋の女性、ペアと名乗った女性、オレンジ、今行動を共にしているアップルこと凛。
姉以外で、こんなにたくさんの女性と会話をしたのは初めての経験だと思う。
思った通り緊張したけれど、思ったほどの度合ではない。
これを慣れというのだろう。
 
凛はとてもクレバーだ。
年下にも関わらず、一人の人間として尊敬する。
僕のような引きこもりを見下すこともなく、それどころか尊重して、引き出そうとすらしてくれる。
世の中にはこんな人もいるんだな、と思った。
 
うまく褒めてくれるものだから、もしかしたら本当に自分は自分が思うほどダメな人間ではないのかもしれない、とさえ思わされる。
そんな風に言ってくれたのが、今までは姉だけだったから、きっと弟を持ち上げてくれていたのだろう、と気にも留めていなかったのが、そうではないかもしれないと期待してしまう。
自分に期待などしても良いことは何もない。
散々そうやって失敗してきたじゃないか。
 
「優し過ぎるんじゃないかな、瞬は。」
 
「え?」
 
「だから、誰かを傷付けないように言葉を選び過ぎて、結局自分が傷付いてる。私にはそんな風に見える。」
 
「僕は弱い人間だよ。」
 
「ううん、そんなことない。」
 
「どうしてそう思うの?」
 
「瞬がここにいる理由、ごめんね、ペアと話してて聞いちゃったんだ。お姉さんのためなんでしょう?」
 
「ああ、うん、そうだね。別に隠してないから大丈夫。」
 
「ほら、またそうやって誰かが傷付くことを気にする。弱い人間は誰かを助けよう、守ろうとはしない。」
 
「姉のためじゃなくて、自分のためなんだと思う。」
 
「両方だよ。」
 
「うーん、そうかなあ。」
 
「少なくとも、そう思った方が良くない?」
 
「確かに。凛は前向きだね。尊敬する。」
 
「後ろを向くよりは前を向いていた方が楽しいでしょう?」
 
「あはは、そうかもしれないね。」
 
「瞬、初めて笑ったかも。」
 
「あれ?そうだっけ?でも言われてみると久しぶりに笑ったかも、って気もする。」
 
「うん。瞬は頭がいいよ。頼りにしてるね。」
 
「ええっ!?」
 
「さあ、今日は初日にしては大収穫があったことだし、晩ご飯考えよ。」