048 Episode SS 04 - 引
うんうんと頷く周囲を余所に、一番驚いたのは僕だっただろう。
知っているつもりだった寺のことを、幼い頃に拒絶してから今に至ったことでほとんど何も知らないのかもしれない。
しかし、そんなことは当然とばかりに藤重はあとを紡ぐ。
「しかし住職はそのつもりがない。そういう前提でのお話と受け止めておりました。」
「はい。その通りです。そのつもりならとっくに次の住職にここに居てもらうべきでしょう。」
「嘉稜寺は史実上、ここまで空峰家の血縁で代々やってこられている。だから、他の寺社のように簡単に誰か別の住職に、というわけにはいかないのだと思います。」
「藤重さんは本当によく調べておいでだ。そこまでご存知でしたか。特に隠すようなことではありませんが、声を大にして誇るようなことでもないと認識しとります。」
美奈帆も知らなかったのだろう。
きょとんとしている。
しかし、一番驚いていたのはやはり僕だと思う。
そんな話を聞いたことがなかった。
聞いていたら何かが変わっただろうか。
いや、僕が幼ければ幼いほど余計頑なに拒絶していたことだろう。
少なくともそれを聞いたから後を継ぎましたという結末になるイメージは沸かない。
自分が閉じようとしている一つの歴史は漠然と思っていた以上の重みを持ってのし掛かって来る。
父の言う通り、藤重は本当に詳しい。
都市開発計画の核に嘉稜寺を据えている理由についても、特に異論はない。
非常に斬新な都市デザインというか、あえて古都化するという発想は面白かった。
素直になるほどと思う。
しかし拭えぬ違和感は、自分の無知さを知った衝撃とは別のところにある。
そんな気がしてならない。
何かがおかしい。