Grim Saga Project

047 Episode SS 03 - 継

 
 
 
「息子には、性に合わなかったのでしょう。私はそう思っとります。」
 
ピンと張り詰めたような空気は、柔らかい声でしかしハッキリとした口調が切り裂いた。
父・空峰秀山が沈黙を破ったのである。
僕から見て、藤重や田村はさほど驚いたような顔はしていなかった。
どちらかというと、少し目を見開いたように感じたのは妻の美奈帆だ。
 
「なるほど。性に合わない…。なるほど、しかし、それではあまりにも…。」
 
藤重は口惜しさが滲み出るような呟き方をした。
ここまでの印象では意外なほど歯切れが悪いように感じた。
僕の「寺を継がない」という判断は、ある一つの歴史に幕を下ろすという決断は、やはりそれなりに重みのあるものなのだろう、とこの時改めて響く感覚があったのは確かだ。
美奈帆はおとなしくしていたが、何か言いたそうには見えた。
素直な彼女はちらちらとこちらに視線を向けている。
僕は居心地が悪かったが、あえて視線は合わせないようにした。
 
「跡継ぎってのは血縁関係者じゃなきゃダメなもんなんでしょうか。」
 
これまで押し黙るように、真一文字に口を噤んでいた倉持が突然発言した。
驚いた。
内容にも驚いた。
つまり、倉持が突然声を発したと思ったら、突拍子もない内容であった。
しかし、残念ながら知る限り世襲以外の後継はない。
いや、とはいえ知らないだけだろうか。
本当にその可能性はないのだろうか。
僕自身は坊として生きることに踏み出せないだけで、嘉稜寺を終わらせたいわけでもなんでもない。
空峰秀山が再び切り返す。
 
「もちろん後継者問題はこの寺だけの問題ではない。住職の婚姻や子宝に恵まれるかどうか、男の子かどうか、様々な要因で困っておられるお寺さんは他にもたくさんあります。そのため、血縁とは関係のない住職がお寺を継ぐこともままある話ですし、紹介を受けることもできます。」
 
え?そうなの?