Grim Saga Project

044 Episode MS 04 - 小さな秘密の行方

 
 
 
話は藤重中心に進行した。
世間に疎い私ですら、マスイノベーションの名は聞いたことがあったが、その場では気付かなかった。
夫がその場に居て、何かよくわからない大事な話が始まることに気持ちを奪われていた。
 
「という流れが概要なのですが、私はこの嘉稜寺がとても重要だと考えています。この都市開発計画の核と言ってもいい。」
 
「と言われて、私はどうすれば?」
 
「実は今のところ特にありません。挨拶をしておきたくて。ただ、重要な拠点と考えているにも関わらず、今は住職がほとんどお一人で切り盛りされていることも存じ上げておりまして、一つお願いができるとすれば嘉稜寺を潰さないで欲しい、というところです。」
 
「なるほど。しかし、今のところこの寺は私の代で終わりにする可能性は正直考えておるのです。」
 
「やはり左様でしたか。この計画の重要な拠点となる嘉稜寺が閉じられてしまうのは私共としては非常にツライ。少し立ち入った話をお聞かせいただけるなら、なぜなのかをご教示いただけないでしょうか。つまり、たまたまご一緒いただけた義理の娘さんがいらっしゃるということは、正当な血筋のご子息がおられるはず。なぜ後を継がれないのか、という質問です。」
 
本当にそれは私がなぜなのか聞きたい。
あまりにもできすぎたタイミングでの外部圧力に私は驚くしかなかった。
色々調べてきているようだが、この場にその後を継がない正当な血筋のご子息張本人がいることまでは知らなかったようだ。
ちょっとした遊び心でこの関係を黙ったまま話を進めてしまったことが、とても大きなポイントになってしまった気分になる。
繰り返すが、まさにそれは私が聞きたい。
 
よっぽど、それは本人に聞いて下さい、と言いたかったが私がそれを言うのは筋違いだ。
夫本人がこの小さな秘密をこの場で明かすか、お父さんが言うかしないのにでしゃばるわけにもいかない。
私は誰かが口を開くのを待った。