042 Episode MS 02 - 曇天の霹靂
何か打つ手、いや、夫のもっと深いところにある感情を理解して、お父さんと話す場が欲しかった。
夫は特にお父さんを避けているわけでもなかったが、夫婦で過ごす時間の中に嘉稜寺を訪れる理由はない。
私から声を掛けてしまえば、夫に家業のことを話したいのは明らか過ぎて憚られていた。
こういうもやもやが苦手な私だが、デリケートな問題であることもわかっているから慎重になってしまう。
私は隠し事も苦手なので、お父さんの話を聞きにちょこちょこ嘉稜寺に足を運んでいることは夫に伝えていた。
だから、なんとなく嘉稜寺に興味を持っていることを夫もわかっているだろう。
自分が遠ざけたものに妻が近づいていくのだから面白いわけはないが、その点、夫はそんなに器の小さな人間ではないようで、お咎めもなければ不機嫌になるようなこともなかった。
そこは少しだけ気が楽である。
どうやって切り崩すべきなのか、悩んでいるある日、思いも寄らぬ不思議な場が設けられることになる。
いつものように、特にアポイントもなく嘉稜寺を訪れた時のことだ。
お父さんがお客さんを出迎える準備をしていた。
「あ、お茶とお菓子の準備なら私がやります。」
「ああ、美奈帆さん、いやあ、これぐらい私一人で大丈夫だよ。座ってなさい。」
「ううん。いつも突然お邪魔しているんだから、これぐらいやらせてください。お客様は何名ですか?」
「仕方がないな。ええと、4名だと聞いているよ。」
そして、しばらくして訪れたお客様に私は絶句した。
その中の一人は夫だったからだ。
後で聞いた話だが、お父さんも客の一人が息子だとは知らなかったらしい。
驚くべきことに、夫自身も当日まで嘉稜寺を訪問することは知らなかったのだそうだ。