Grim Saga Project

041 Episode MS 01 - 世継ぎ早

 
 
 
私、清水美奈帆は夫を愛している。
だが結婚前、彼は真面目な公務員だと思っていたにも関わらず実は家業があることを知り、なぜそちらを継がないのか気になっていた。
物事をハッキリ白黒つけたい性分の私は、もやもやしながら結婚したくなかったのでその理由を聞いてみたことがあった。
 
「代々の言い伝えとかしきたりというものが自分には合わなかった。だからだよ。」
 
おそらく、これは本音だったろう。
そして、私は納得して結婚した。
彼は結婚するに当たり、清水姓を名乗らせて欲しい、つまり婿入りの形を取らせて欲しい、という条件一点だけを強く望んだ。
だから彼は清水になった。
 
彼の父親と話すとその言い伝えやしきたりが何だったのかが気になる。
母親は早くに亡くなって、いない。
男手一つで彼を育てた父親は、人の良い男であった。
挨拶に行った時など「息子のことをよろしく頼みます」と仰い、彼は渋い顔をしていたものだ。
 
お父さんは真摯な人間だ。
段々とどうして彼はお父さんの後を継がないのだろうという思いを再燃させた。
言い伝えやしきたりが何を指すのかわからなかった。
姓を捨てたいとまで思わせる何かとは何なのだろう。
お父さんに話を聞く機会が自然に増えた。
 
「お父さん、私は彼の気持ちもわかりますが、家に伝わる力のお話にも信憑性があると思っています。」
 
「美奈帆さん、ありがとう。しかしあいつは心変わりしない。私ももう目が見えなくなり始めてだいぶ経つ。時間の問題じゃないかと思っているよ。」
 
「そんな…」
 
「いいんだ、仕方ない。血は君を通じて紡がれるだろうが、我が家の伝統は私の代で終わりだ。」
 
「私…、私、もう一度彼とお話してみます。」
 
「やめておきなさい。伝統に縛られて息子夫婦が不仲になっても私は嬉しくないよ。」
 
「でも!」
 
みすぼらしい机を囲み、向かい合って座る義理の父と娘。
俯く私は繋ぐ言葉を見つけられなかった。
 
納得がいかないことがはっきりしていれば戦いようもあるが、これはそうではない。
もっと掴み所がなく曖昧、もやもやしていた。