039 Episode JF 03 - ブラックホールトゥコア
フミ…。
思わず、亡き最愛の女性の名を口走ることが最近多い。
必死に戦い続けて、ようやく彼女の命を奪った真犯人を探せることへの高揚。
むせかえるような怒り、悲しさや虚しさ、切なさ、もうどのような言葉で言い表して良いかすらわからぬ負の感情の塊がどろどろと胸の中で滾る。
反面、あまりにも色々なことが起きすぎた人生のおかげで、私は起業家としての必須スキルである度胸やらポーカーフェイスやらは元々身につけていたと言える。
失うものがもう何もなかっただけのことだ。
マスイノベーションですら、フミの死の真相を突き止めるためだけに立ち上げた、ある意味不純な動機による企業である。
はっきり言ってどうなったってまったく構わない。
真相にたどり着けるのなら、失ったって構わない。
手放しても良いし、消えて無くなったってどうでも良い。
そこで働く社員たちは大事とも言えるし、その家族の人生を背負っていることも重々承知していたが、正直それもどうでもいい。
さて、死の真相を探るための材料は色々と手に入れた。
財力も時間も権力も。
どのように手を打つかもあらかじめ考えておいて、事業の傍らでそう言った情報筋の人間との繋がりを確保するようにしていた。
それが功を奏した、と言えるかもしれない。
今ものうのうと生きている、私を嵌めた企業の役員共に真相を吐かせるための情報として私が選んだのはグリムの器という都市伝説のようなものであった。