038 Episode JF 02 - うねるブラックホール

　
　
　
最後まで自分を励まし続けてくれていた彼女は、実は自分よりもツライ思いをしていたのだ。
引きこもるような生活をして自分のことしか考えていなかった。
彼女は、結婚もしていなかったがために内縁の妻などと揶揄されながら、私を守ろうとし続けていた。
私が悲劇のヒーロー気取りをしている間に、命を失った。
自殺とのことだったが、信じられない。
　
真実を確かめるためにも、家に閉じこもっている場合ではなくなった。
彼女の死を無駄にしてなるものか、との一心で戦い続けた結果、無罪を勝ち取り、古巣を潰した。
しかし彼女は帰ってこないのだ。
私は小さな不動産業を始めた。
　
彼女の死の真相を突き止めるために動き出さなければいけなかっただけで、始める仕事は何でも良かった。
ただし、必死にやればやっただけ成果が上がって、一定の状態に達したら今度は自分に時間的自由が得られるとなったら、選択肢は起業しかない。
インサイダー取引の容疑者となり、世間を騒がせた経緯があるともなれば、就職も簡単ではなかったことも後押しした。
　
思いの外、事業が成功し、真の目的であった彼女の死の真相探しを始めたのは最近のことだ。
マスイノベーション内部にも協力者が必要だと考えた。
腹心の部下とも言える、田村が適任だった。
容疑者扱いされた企業に勤めていた頃の同僚で、比較的自分の味方をしてくれていた男だ。
比較的初期段階から、マスイノベーションの役員として参画してもらっていた彼以上に自分の腹の内をさらけ出せる人間はいないと判断したのはごく自然なことと言える。