037 Episode JF 01 - ブラックホールが生まれる
株式会社マスイノベーションは設立から10年で、売上が約1万倍にまで膨らんだ。
倍数にするとよく分からないが、個人で始めた小さな不動産の売買を行う会社だった。
かろうじて自分一人の生計が賄える程度のしがない一人会社。
地域密着で特にあくどいこともせず、たまたま周囲に土地を余らせている人間がいる、とか欲しがっている人間がいるとか、会社員として生きていくことにつまらなくなっていたりとか、そういう小さな積み重ねが起業してみようかという思いに至った理由であった。
不動産は土地や建物を扱う職業柄、動く金額が大きくなりやすい。
リスクも見ながら堅実な経営をしていた初年度の売上は1千万円程度だった。
今や、年間売上は1千億円に到達しようかというところだ。
倍々ゲームかの如く、人が増え、取り扱い物件が増え、動く金額の桁が増す。
きっかけがあった。
頭脳明晰、容姿端麗、調子に乗っていた自分をずっと見守っていてくれた女性がいた。
自分はその女性と生涯を共にするものだと思っていた。
当たり前のように、優秀な自分についてくる。
起業前に勤めていた会社での大きなミスで社会的地位を失い、どん底まで落ちて、マスコミの目にも晒された。
自宅にも人が押し寄せ、責任を追及され、報道記者に追い回され、失意もこれ以上なく膨れ上がった。
インサイダー取引というやつだ。
しかも自分には身に覚えがない。
会社に嵌められた。
社長他、自分以外の役員を守るための犠牲、スケープゴートとして差し出されたと知ったのは事後であった。
それでも自分を見捨てず、ついてきてくれていた彼女が命を落とした。