036 Episode KK 04 - イノセントグレイ
その住職が空峰氏であった。
妙な間合いで動く男だと思ったら目が不自由らしい。
事前に調べた時にはわからなかった。
凡庸な人間と自覚がある自分だが、前準備はキチンとして行きたい方だ。
藤重の件に続いて調査不足が重なり、自分にガッカリした。
住職の問いに答え、簡単に挨拶をして、藤重の希望で境内を案内してもらうことになった。
ただし、住職は目が不自由なのでただの散歩に近い気がした。
いざ、境内をぐるりと一周してみると、住職の目が悪いのかどうかわからないほど淀みなく移動する。
動き自体は非常にゆっくりだが、なぜか違和感は覚えなかった。
本堂の仏像は想像以上に大きく、ありがたいような後ろめたいような奇妙な気持ちになる。
1時間近く散歩する中、一番よく雑談をしたのは藤重であった。
ずいぶん詳しく嘉稜寺のことを知っている。
いや、嘉稜寺に限らず、寺社・宗教・歴史など多岐に渡る知識を持っていることが伺われる。
それをひけらかす様子もなく、ただ純粋な疑問と感嘆・感動から空峰住職と話している。
まるで子どものようであり、落ち着いた振る舞いではあるものの先ほど畏怖を覚えた男とは別人のように無邪気に見えた。
田村と私、そして清水の三人は口数少なくついて回る。
それぞれ何を考えているのかわからなかったが、正直私は退屈な気持ちとこの後の交渉に向けた憂鬱な気持ちとが頭の半分ずつを占めていた。
私たち四人は、空峰住職に従われ、母屋に足をはこぶ。
生活感のある空間。
居間らしき部屋は畳が敷かれた和室で、木製の食卓が中央に存在感たっぷりに置かれている。
長方形の長辺側は二人が座ってちょうどいい程度の長さ。
入口から奥側に藤重と田村を座らせ、手前に私と清水で座る。
このメンバーの中では最年少の清水が部屋の片隅に積んであった座布団を配って回り、四人は食卓を囲んで座る。
住職は、私たちを部屋に案内してすぐに別室に移動したが、しばらくすると戻ってきた。
人数分のお茶を乗せたトレイを抱えている。
食卓の短辺側に、茶を配り終えた住職が腰を下ろす。
いよいよ本題、というところだ。