022 Episode SM 02 - 緑と白
「それは"神の器の毒"と呼ばれるモノかもしれません。」
美しい顔が人形のようで、しかし、その小さな口から発せられた言葉が禍々しくてちょっとびっくりした。
初めて僕が得た有力かもしれない情報は、とても怪しげなものだった。
喫茶店で向かいに座っている女性は、そんな情報屋などという物々しい商売をしているなんて、微塵も思わせない清楚な出で立ちである。
女子大生にはない気品に溢れていて、それでもあまり歳上にも見えない。
何者なんだろう、この人は。
「あら、なあに?」
ぼんやりと彼女の顔を見つめてしまっていた。
いえ、何でも、と答えたけれど、微妙な空気になってしまったことは否めない。
「神の器の毒って何ですか…?」
当然の疑問を投げ掛けて、この間を断ち切る。
「うーん。残念だけど、あなたは何も知らないようね。仲介してくれたあのオジサマが賢かったのかしら。もしあなたとまた会う時が来るのなら、その時はもう少し有意義な情報交換ができるかもしれません。」
え?
よくわからなかったが、なんとなく外人が流暢な日本語を喋ったような印象を持った。
キレイだった。
話している女性も言葉も。
そして、今の自分にはこれ以上の情報は得られないのだということも理解した。
僕は何を知らないのだろう。
向かいの女性と対面して5分も経っていないかもしれない。
彼女が注文したアイスティーには手をつけられていなかった。
彼女はすぐに立ち去るのだろうと思った。
しかし、予想を裏切って向かいに座ったままである。
「えっと…、あの…、貴女はなぜそこに居るんですか?」
元より僕は人と話すことが得意ではない。
言いたいことを伝える言葉を選んだつもりがひどく道徳的な禅問答のような問い掛けになってしまった。
自分の不甲斐なさにやや肩を落とす。
「ふふ。面白い質問ね、それ。私はここに居たいからいるのよ。これでOK?」
「でも、もう貴女にとっての要件は済んだのでは?しかも期待したほどに得るものがなかった、という結果で。」
せっかくうまく話を繋げたのに、今度は余計な情報を足した気がする。
まったくうまくいかない。
「ええ。その通りだけど、あなたちょっと思考がネガティヴね。もったいない。なぜかしら、なんとなく、あなたにもう一度会う予感があるの。」
「もう一度会う予感があると、…どうなるんですか?」
「もう!せっかちね…。せっかくまた会う予感があるんだから、それであればなるべく良い形で会いたいじゃない?」
「はあ…。」
「あなたはどう思う?」
「そうですね。もしその予感が正しいのであれば、それはもちろんお互いにとってより良い形の方が望ましい。」
ようやくまともなやり取りになってきた気がする。
やればできる。
だが、なんとなくこの展開まで折り込み済みでコントロールされた会話のようにも感じる。
「それじゃあ、気が向いた時のキーワードを教えてあげる。私には利用できないのだけれど、あなたには意味があるかも。」
「ん?」
「あなたに私と会うように仕向けたオジサマがいるでしょ、とっても変わった。」
「ああ、はい。」
「そのオジサマを探してこう伝えてみて。」
"籠のお嬢様に取り次いで欲しい。"