Grim Saga Project

019 Episode MM 05 - 400歩進んで200歩下がる

 
 
 
「深水さんと光井さん、ですね。」
 
盲目の坊主が自分たちの名を繰り返した。
零の交渉の結果、あっさりOKが出た。
今日これから必要最低限の荷物を取りに戻り、夕方以降でまた寺に帰ってくる。
何日も掛けて何度も通う羽目になるよりはマシだけれど、今日一日で石段を一往復半することになったわけだ。
400段登って200段下りることになるのか。
 
そもそもこういう寺には、外の人間を受け容れて寺での生活体験ができるプログラムが用意されていたりするのだそうだ。
いわゆる滝行のような。
もちろんそれは有料である。
自己啓発や心の修行としてある程度の認知があり、企業の研修などに利用されたりもするらしい。
なるほど。
 
寝床や食料、人手などの準備があり、一般的には予約制なのだという。
零もそれを考えて、事前に調べたようだが、嘉稜寺にそういうプログラムがあるという情報は見つけられなかった。
それに対して坊さんはこう答えた。
 
「ええ、はい。基本私一人なもので、そのようなことは普段やってませんから。」
 
しかし、零の希望は受け容れられた。
ここにしばらく住んでみたい、という突拍子もないような頼みだ。
坊さんからすると、嘉稜寺に興味を持ってくれた若者の頼みを断る理由はない、とのことだ。
幸い、母屋も長屋も部屋は余っているそうだし、目が不自由な坊さんの助けにもなるかとも思ったが、その申し出に対しては不要であるとの即答による返しであった。
それよりむしろ神仏に仕える身に一時的とはいえ、なるのであればそれに相応しい暮らしを体験して帰りなさい、というのが盲目の坊の主張であった。
滝に打たれる必要はなさそうだ。
 
もう一つ、付け加えておくと、住まう期間の費用は最小限の食費程度で構わないとのことであった。
質素な食事は用意できるらしい。
あと、条件として朝は4時に起きること。
夜は21時に寝ること、という躾のような時間の規則があった。
もちろん即受け容れた。
あとは午前と午後で各一度、掃除と座禅をすることになった。