Grim Saga Project

011 Episode MM 01 - ある若き乙女

 
 
 
鉄の千年桜。
今回のターゲットの名前だ。
それが何であるか、どのような形なのか、重さなのか、大きさなのか、何一つわからない。
 
一時的に近くの町に部屋を借りた。
少し抵抗があったが、そんなに資金も潤沢ではないため二人で一部屋だ。
一部屋といっても、もちろんその住まいの中には二部屋以上あることが条件だった。
そうしないと、零と共同で寝泊りする場所として相応しくない。
その点に関しては零とも意見が一致していた。
つまり、それぞれが別の部屋を使う、という前提条件だ。
 
「うち料理とか作らんからね。」
 
「誰も作れなんて言ってない。」
 
「あ、そう?」
 
「作って、って言って欲しい?」
 
「ううん。でもなんかそう言われるとちょっと悔しいような…。」
 
「どっちだよ。」
 
ということで昨日は小さな冷蔵庫と机と椅子を2脚購入した。
あとは洗面用具やらシャンプーやらトイレットペーパーやら生活必需品を最低限。
それぞれに寝袋を用意したため、別に眠る部屋を分ける必要もなかったようにも思えてくる。
夫婦を演じる手も考えなかったわけではないが、絶対条件ではなかったためお互いの顔を見合わせてその可能性は消滅した。
そして夫婦というには若い。
結局食事については成り行きに任せて適当に済ませることになった。
 
眠る場所と必要最低限の生活が出来る環境だけは昨日のうちに整えた。
一晩寝て、早速この桜の木を見に来たのだ。
 
「話を聞いた時は千年も生きてる桜の木だっていうから鉄で補強されてたりするごっつい感じかと思ったけど、ぜーんぜん普通やねぇ。」
 
思った通りを言ってみた。
零が、どんな想像をしてたんだよ、という苦笑顏になった一瞬を見逃さなかったがスルーすることにした。
気を取り直して続ける。
 
「で、どこが鉄なんやろ。」
 
「さあ。」
 
「この木自体がターゲット、って可能性も考えてたけどそれはないみたいね。」
 
「うん、それはないな。」