009 Episode NY 04 - 一息の手前
「間さんに色目を使われるのを防ぐため…とか?」
「ぶっぶー!でもそれもいいね!」
「いや、だから、ぶっぶー、じゃなくて。」
「だってハズレなんだもん。」
「だってわかんないだもん。」
「教えて欲しい?」
小悪魔のごとくくすくすと笑いながらラムは前を向いて歩き始めた。
イエスと答えてもノーと答えても負けな気がする。
というか結果は変わらない気がする。
なんせ、初めて会った時から会話のイニシアチブは握られっぱなしなのだ。
会話のコントロールも、表情・行動の抑制と同じぐらいは小さな武器の一つだと思っていたが、そんな自信はあっさりと打ち砕かれた。
なんとなく女性特有の気紛れ感のある会話のように思える中に、ラムの場合は明確な意図がある、または明確な隠し要素がある、そんな感じなのである。
元々女性は何を考えているのかわからない節があると思っているのだが、ラムの発言はまた独特のリズムや流れを持っている。
「ところで尚都くん。そろそろ淀みなく私と会話してくれるのね。嬉しいなあ。」
「うまくやれてる?」
「及第点。」
「ギリギリ感満載だ。実際そうだと思うけど。」
「あれ?自己評価低いな。」
「リアリストなんだと自覚しております。」
「それは違う。」
「え?なんでそう思う?」
「もう少し人に優しく接しないコミュニケーションも覚えた方がいいかな。」
「ん?それ、俺の質問の答えになってる?」
「なってるよ。…あ、ほら、あれじゃない?石段。」
結局なんで腕を組まれたのかも、なんでリアリストじゃないのかもわからないまま、寺の入口と聞いていた石段に差し掛かった。
すぐに三人が追い付いてくる。
円が"ラムちゃん、さっきはどうしたの?"と尋ねた。
うわ、そこ切り込んでくるんだ、というのが正直なところ。
あれ?円さん、見ませんでした?蛇の死骸があったの。怖くって。
あっさりとラムが躱した。
絶対そんなもんはなかった。