Grim Saga Project

008 Episode NY 03 - 道中試練譚

 
 
 
実は嘉稜寺に向かう道は何本かあるらしい。
今歩いている山道は、中でも一番険しいルートだとか。
地元の人は寺の散歩道と呼ぶのだそうだ。
散歩道の始まりから寺に上がる石段まで、急げば30分、ゆっくりでも1時間掛かるがこの道が一番桜並木が素晴らしい参道でもある。
何本かのルートがあって、それらが石段前で合流しているという情報は事前に耳に入っていた。
 
既に散歩道に入ってから30分はゆうに歩いているはずだが、まだ石段は見えない。
ふう、と一息つくと100mは先にいるラムの元に駆け寄った。
最後尾から三人ごぼう抜き。 舗装は緩いがそこそこ道幅はあるので、さくら、円、間の順にある程度の距離を置いてすれ違っていった。
それぞれすれ違う時、さくらは視線だけをこちらに向け、円はにこやかにこちらを向いてパタパタと手を振り、間はノーリアクションという三者三様の反応だったのが妙に印象に残る。
 
で、どうしたの?…と、ラムに声を掛けようとしたが、その前に呼吸が止まりそうになった。
腕を組まれたからだ。
結構な勢いで。
 
「何これ?何アピール?」
 
「見ての通り、私と尚都は仲がいいのよアピール。」
 
「なんで!?」
 
「さて、なんででしょーう!」
 
「いやいや、なんででしょーう、じゃなくて…。」
 
「じゃあ、なんでだと思いますか?」
 
「それ敬語にしただけだし。」
 
「だって答えないから。」
 
微笑むラムの腕は既にほどかれていた。
俺とラムにしか聞こえない程度のボリュームで謎の会話をしつつ、軽く後ろを振り返る。
今の俺たちの動きを見て、各人がどういう反応を示したのかが気になったからだ、と自己分析する。
 
今日が初対面の三人は、まず少なくとも、ここに来るまでに俺とラムの関係はモデルと助手だと聞いているはずで、ここまで来る間も逸脱するような行動は何もしていない。
触れてもいない。
実際の関係はどうかと問われると、ただのモデルと助手とはまた少し異なる微妙な関係ではあるけれど、とにかく色恋とは無縁だ。
にも関わらず、まったく今のラムの行動の意味がわからない。
 
そして、俺の特徴の一つとして、表情や行動から感情を悟られづらい、というのがある。
つまり今の一瞬腕を組まれたことに対する反応は、内面の驚きを表さず、わずかにのけぞった程度だったはずだ。
その上、近距離で会話をして彼女が楽しそうにしていたら、どう見ても親密である。
反応の仕方をしくじったような気がしたが、おそらくラムはそんなことは織り込み済みだ。