006 Episode NY 01 - 奇妙な行軍
「ラムちゃーん、ちょっと待ってよー!」
男は微笑しながら声を絞り出した。
ラムと呼ばれた若い女性は男のだいぶ先を歩いていたが、声が聞こえたようだ。
まるで自分がどのように振り向くと一番美しいかを当然知っています、と言わんばかりに美しく振り返った。
「なーんですかー?」
高い声が返ってくる。
「円さん機材重いからもうちょっとペース落としてあげて。」
「大丈夫大丈夫!このぐらいでへばってたら商売上がったり!」
今度は男よりも少し後ろを歩いていた女性が大きめの声を張り上げた。
後ろからついてきた円と呼ばれた女性は細いけれども力強い肢体を元気良く動かして歩いてくる。
引いて転がすタイプの大きなキャリーバッグとその持ち手に無理やり括りつけられた機材を右手で引っ張りながら、左手では三脚を中心としたかさばる荷物を抱えている。
その更に後ろ、最後尾には若い男性と女性が一人ずつ。
先頭を歩くラムと呼ばれた女性はモデルである。
この一向の中心人物であり、明朗活発、元気いっぱい、そして職業が示す通り美しい。
モデルというものの、飾った印象ではなく、キャラクターそのものから元気と美が放たれているようだった。
続く男性が最年長、雑誌「シェリー」編集長の間である。
はざまと読む。
その後にまた少し離れて続く女性はラムより少し年上だが、こちらも元気なカメラマン、有村円。
タンクトップにショートパンツで、健康的美女といったイメージを与える。
重い機材を運んでいる姿が違和感を醸し出すほどだが、本人にはさほど気にしている素振りはない。
そういった条件を無視すれば、ラムと円の二人が今回のモデル二名と言われてもおかしくない。
そして最後尾からおとなしくついてくる男女。
女性は米実さくらという。
雑誌「シェリー」編集部のアシスタントとはいうものの、期間限定のアルバイトなので実は何も勝手がわからないそうだ。
今回の撮影に合わせて臨時で雇われたらしい。
円の荷物がとても重そうなので、シェアして運ぶことを提案したがあっけなく断られた。
知的な印象で、ラム・円とはまったく違うタイプに思える。
そして俺、ラムに尚都と呼ばれたことで全員からそう呼ばれることになってしまった彼女の助手である。
男性二人、女性三人の変わった一向だった。
基本的に集団行動が苦手で、こういった人数に慣れていないせいか、この不思議なメンバー構成での行軍を、まるでRPG(ロールプレイングゲーム)のパーティ編成のように感じていた。
そんな連想を更に膨らませて、各人がどのようなジョブ(RPG中の職業)であるかを考えながら歩く。
歩き疲れてきたせいか、思考がめちゃくちゃになっている気が自分でもなんとなくしていた。
ラムは踊り子だろうか。
隊列の先頭には向かないが華やかだ。
攻撃力が高く俊敏で、体力と防御力は低め。
二番手、間編集長は恰幅の良い商人で体力タイプ。
最強の武器は正義のソロバン…、だったりして。
三番手、円カメラマンは細身なのにハンマーとか振り回しちゃう戦士。
こちらの方が先頭向きではないだろうか。
後列はさくらアシスタントと俺。
どちらも魔法型だけど、さくらさんが意外と強力な魔法をぶっ放すウィッチがお似合いだろうか。
そうなると俺はおとなしく僧侶をしておけばいいが、回復魔法は使えなそうだ。
困った。
そんなどうでもいい想像をしながら目的地へと近づいていた。
あ、それだと勇者がいないからやっぱりラムは踊り子じゃなくて女勇者でどうだろう。