Grim Saga Project

007 Piecing [ACEMM] Anti Poison Unit

 
 
 
「うわあ、それでみんなで来たの?えーっと、籠様、はじめまして。瞬がお世話になってます。姉の緑川梨紗です。」
 
「はじめまして、梨紗さん。みんなにはいつも私が助けていただいているんです。まずお礼を言いに来ました。」
 
「こちらこそ。まず、なのね。私その次のお話が気になるなあ。聞いてた以上に神秘的で素敵ね。」
 
「ありがとうございます。私の次の話の前にみんな聞きたいことがあるみたいだから、そちらを先にしましょう。」
 
「あら、私で力になれることがなにかあるかしら。」
 
「じゃあ僕から。姉さん、輪廻の指輪以前から僕たちの周りに器が存在した可能性を考えているんだけど、何か心当たりはない?」
 
「その可能性を考えているのはなぜ?」
 
「あ、そうか。杠さんの話に出てくるはずもない。でも姉さん気付いたね。」
 
「あんまり考えたくないな…。」
 
「あ、ごめん、変に不安にさせるよね。えっと、僕の具合が悪いとかそういうことじゃないんだけど、僕にも謎の力がある。」
 
「なにそれ!?いつ頃から?」
 
「気付いたのは中学生頃だよ。いつから使えたのかはわからない。」
 
「どんな、…どんな能力なの?」
 
「うーん、説明するのが難しいんだけど、一言で表現すると透視。ただ、都合良くなにかを透かして見えるわけではなくて、両眼の等距離からの球状の範囲の内側すべてのものが見えなくなる。その距離を少しずつ広げることができる。」
 
「えっと、ちょっと待って。イメージする。………うん、うん、わかった。それって疲れるの?」
 
「結構。でも近距離なら一日に数回は行けるかな。」
 
「あそこの冷蔵庫の中にあるもの、見える?」
 
「今の限界距離は10m行くか行かないかぐらいなんだ。で、近づくほど楽。もう少し近づいて見てもいい?」
 
「いいよ。」
 
「よし、じゃあ見てみる。…………うわ、なんだこりゃ。水のボトルが、えっと三本、牛乳パック、オレンジジュース、あとなんかお菓子が色々。」
 
「すごい。ホントだ。合ってる。今聞いたままだと凛ちゃんの服を透かして見るとかはできないね。」
 
「梨紗さん、私も初めに聞いた時、やっぱり一般的な透視のイメージでそれ思っちゃいました。」
 
「あのねえ、姉さん、わかってて言ってるんだろうけど、本当に人間だけは見たくない。気持ち悪いんだよ、内臓とかは。自分の体も、地面ですら透けるからね。」
 
「なるほど。で、能力のことはわかった。ありがとう。これ、ちょっと宿題にさせてくれない?私たちの黒歴史というか、あの大変だった頃のことを思い出さなきゃいけないから、ゆっくり落ち着いて考えたいな。」
 
「わかった。でもごめん。じゃあやっぱりいいや。」
 
「え、どうして?」
 
「そのリアクションだとさ、つまり姉さんはすぐに思い当たることがあるわけじゃないことがわかる。だったら、僕自身で当時を思い出すのときっとあまり変わらないから。」
 
「そっか。瞬は昔から頭良いね。でも、何かもしかしたら、ってことを思い出したら伝えるよ。」
 
「うん。ありがとう。」
 
「尚都は私と指輪のこと、凛ちゃんは千年桜と仲良くなる方法、ってとこかな?」
 
「うわ、梨紗さんすごい。ここに来る前の私たちの話を聞いてたみたい。」
 
「籠様が一緒に来てるんだもん。大体どんな話か想像つくよね。」
 
「なるほど。それでもすごいです。」
 
「で、両方への答え、多分一緒に話せるから私から話しちゃうね。ちょうど私も一つ確認したいことがあって。」
 
「わかった。」
 
「まず伝えるのは、どちらの期待にも今は沿えない、ってことなんだよね。ごめんね。私は指輪と仲良くなれてない。」
 
「そうか。わかった。でも梨紗、今は、ってのは?」
 
「うん。私さ、ずっと病院にいるでしょう。だからひたすら考えるの。尚都の話、私たちの辿った経緯、輪廻の指輪のこと。それで一つもしかしたら、って思うことが出て来た。」
 
「というと?」
 
「尚都と私、指輪の扱い方を間違ってるんじゃないか説。」
 
「なにそれ、どういうこと?」
 
「答えから先に言うね。尚都と私は、持つべき指輪が逆だったんじゃないかな。」
 
「え…?」
 
「私さ、尚都のこと信じてるわけ。だから、話もそのまま信じるじゃない。そうすると、あれ?って思うことがある。」
 
「なにか俺の話がおかしい、と。」
 
「尚都は私に嘘をつかない。これは前提。ここが違ったらもう知らない。で、結局、事実だけまず並べると、最初に尚都が私と同じ病気に罹った。おそらくそれは器の毒。そして、何らかのきっかけで治った。入れ替わりで今私が病気になってるよね。それが輪廻の指輪の毒による影響だとしましょう。少し推測も入ってるけど、ここまではいいよね。」
 
「うん。合ってる。」
 
「尚都は家に輪廻の指輪の片割れがあって、それを持ってきたんだよね、初め。私はそれをプレゼントしてもらった。」
 
「うん、そうだね。」
 
「輪廻の指輪はこの通り、二つある。仮に大きい方を男の子、小さいほうを女の子としよう。尚都が指輪を手に入れた経緯、梨絵留の妹、真白さんと一緒の時の話があるよね。」
 
「ああ、そうそう。ペア、えーっと、ラム、じゃなくて、ややこしいな、その梨絵留本人から梨沙と知り合いだった話は今ちょうど聞いてきたよ。まあ蛇足だけどさ、ここに来るまでの間に思い起こした。嘉陵寺の時の、えーっとラムでいいや、彼女の態度はつまり、俺が梨沙に相応しいかを試してたと思うと納得が行く気がしてる。」
 
「うん、私がお願いしたわけじゃないけど、きっと梨絵留なりに私たちのことを考えてくれたんだろうね。まあとにかくさ、私たちの体調の経緯と、指輪のことを時系列に考えて行く。この体調不良の原因が輪廻の指輪にあるかもしれないことを知って、改めてそうやって符号させていく。」
 
「ああ、やっぱり梨紗だな。いつもこうやって俺がぼんやりとしかわかっていなかったことをクリアにしていく。」
 
「あ、そんな風に思ってくれてたんだ。なんか嬉しいね。ありがとう。でも、まだなの。聞いて。尚都が初めに体調を崩した頃って、男の子の指輪を私がもらった頃だよね。一方でその時女の子の指輪はまだ当時の所有者、確か皇帝って呼ばれてた、えっと綿貫さんだったよね、おじいさまが持っていた。その方が言うには、女の子の指輪は男の子の指輪にずっと会いたがっていた。」
 
「ああ、そうだった。よく覚えてたね。」
 
「うん。ということはだよ。尚都が体調を崩した原因はいくつか考えられる。一つは男の子の指輪が尚都の元を離れたから。私ずっとそこで躓いてたんだ。だって、今の形、つまり、尚都が男の子の指輪、私が女の子の指輪を持ってて、私と尚都もお付き合いしてる形が正しいのだとしたら、今の私の体調の説明がつかないわけでしょう?なんとなくだけど、形が正しいなら、みんなが言うほど仲良くなれていないことが主因で、こんなに毒は長引かないんじゃないかって感じる。尚都は指輪から他者の声を聞けている以上、相性が悪いわけでもなさそうだし。だから私はそれ以外に何かが間違ってる、って前提で考えてる。」
 
「なるほど。」
 
「尚都の体調が悪くなったのは男の子の指輪が尚都の元を離れたからじゃなかった、って考えてみることにした。そうするとどんな可能性があるか。遠隔で女の子の指輪が私たちを別れさせた?って次に考えたけど多分違う。男の子の指輪が、私にもう一方の女の子の指輪を見つけて欲しかったんじゃないかな。初めは。だって結局男の子の指輪は、私が諦めかけてた尚都との関係を戻してくれたんだもん。だからまず私と尚都が指輪に選ばれていることは正しいってことにする。でも、私は指輪を探さなかった。だから、尚都の体調は戻すことにして、私を病気にしたの。結果的に輪廻の指輪は二つ揃ったよね。でも、それならどうして私は治らないのか。何かが正しくないんだと思った。」
 
「難しいな。」
 
「うん。難しいんだよ。だから躓いてた。その間違いが何かわかれば、私は治る。そう思った。その結論が、指輪が反対だった、ってこと。」
 
「なんでそうなる?」
 
「さっき言ったでしょ、どこかで、情報を全部信じ過ぎたのかもしれないと思って一つ一つ疑ったの。それを覆せば辻褄が合うところを探して。でね、綿貫のおじいさまが言ったっていう、輪廻の指輪が婚約指輪だっていうのが間違いだと私は結論付けた。たしか、尚都ははじめに杠の家では、これは縁結びの指輪だって言ってた気がして。たしかに縁は結んでくれたけど、婚約指輪じゃないとしたら。本当の使い方は男の子の指輪を男の子の尚都がつけるんじゃなくて、私がつけるの。女の子の指輪を尚都がつける。婚約指輪だって先入観で薬指につけることしか考えてなかったけど、尚都はピンキーにすればいいし、私は初めに男の子の指輪をもらった時、薬指に合わなくて人差し指につけてたんだよ。でもそれが実は正しかったのかもしれないって。」
 
「姉さんの言ってることが正しいとしたら、グリムの時代にはまだ薬指の婚約指輪や結婚指輪の考え方がなかったか、グリムの一族または当時の所有者が変わり者だったか、って程度のことでたしかに辻褄は合いそうだね。」
 
「でしょう。それにね、どうして輪廻なんだと思う?私はこの名前にも意味があるんじゃないかと思った。生まれ変わるんだよ。例えばだけどさ、代々この指輪たちが結ぶ男女がそれぞれお互いの指輪の生まれ変わりだと考えている、って思ってみたの。私の持ってるこの子、私につけられたいかな?一緒に居たいのは異性だよね。だったら尚都じゃない?逆も然りだよね。この子たちお互いに会いたがってるんだもん。さらに言えば、嘉陵寺の時、尚都は指輪を両方持っていった。とても効果を発揮したんだったよね。たしかに、二つ一緒にいたからかもしれないけど、違う見方をすれば、正しく女の子の指輪を尚都がつけたからなんじゃないかって。」
 
「梨紗さん、…すごいです。ちょっとなんて言ったらいいかわかんないけど、私、鳥肌が…。」
 
「うん、でもまあ、ごちゃごちゃ言ったけど、机上どころか病床の空論だからね。全然違うかも。試す価値はあるかな程度。」
 
「いや、梨紗、ありがとう。とにかく試そう。その指輪、ちょうだい。こっちは梨紗がつけて。これでしばらく様子を見よう。」
 
「梨紗さん、お見事です。どうやら大体合ってるみたい。私にはわかりました。伝わってきます。指輪たち、とても喜んでる。」
 
「え、本当?良かった!」
 
「私の本題もほぼ完了です。今日は私、梨紗さんにも力を貸してもらうべきなんじゃないかと思ってお願いをしに来たんです。貴女が、今考え得る最高で最後の夢色のピースでした。私たちに力を貸してください。」
 
「瞬がいて、尚都がいて、凛ちゃんもいて、そこに力を貸さない理由なんてありませんよ。これで体調が戻る前提で、ですけど、もちろん私も、私で良ければ力になります。みんなもよろしくね。」
 
「はは、姉さん、良かった…。これできっと治るんだ…。こんなことがあるなんて信じられない。杠さん、凛、結成早々に申し訳ないけど、これにて解毒小隊エース、ミッションコンプリート、解散だね。」
 
「なにそれ?」