006 Inspiring [PACEWM] Anti Poison Unit
「籠様、どうして私には器が使えないの?」
「え?どうしてそんな話になったの?」
「違うの?」
「この世に器を使えない人なんていないんじゃないかな。でも、相応しい器と出会えない人が大半だとは思う。」
「籠様、千年桜を私に渡した理由を教えてもらうことはできますか?」
「うーん、本当はアップルさんが自分で気付くのがいいと思うの。だからヒントというか、きっかけだけ。その子は、貴女の持つ力とおそらくとても相性がいい。あと、貴女自身とも。だから仲良くなれると思うよ。」
「仲良く…。わかりました。ありがとうございます。」
「ねえ、籠様。それじゃあ、どうして私はユメカゴには入れないの?えっと、入りたいわけじゃなくて、遠ざけられている理由が知りたい。」
「真白ちゃんはどうしてユメカゴに入れないと思っているの?」
「え?それも違うの?」
「私は、ペアも真白ちゃんもみんな好きだから、一緒にいたいけれど、真白ちゃんが離れて行ったんだと思ってた。」
「え、まあ、たしかに私から離れたけれど、それは、うーん、なんだろう。私、何か勘違いしているのかしら。私に器を持つ資格がない、と言われている気がしたからだと思う。」
「器を持つのに資格なんていらない。」
「それじゃ例えば私が輪廻の指輪と仲良くなれたら、能力を引き出すことも?」
「できると思うけど、今は難しいかな。」
「どうして?」
「ナスくんが仲良くしているから。あと、ナスくんの彼女さんも。」
「俺はまだ器と心を通わせることはできてないぜ?」
「それでもナスくんは十分器には認められているでしょう?誰かの声を聞かせてくれているだけで特別。」
「そうなのか。」
「グリムの器は、グリムの一族が心を込めて一つ一つ打ったもの。本来は、その時代に生きた特定の誰かに向けて創られていたことがほとんどだと思う。それが長い年月を経ても心として残って、今尚特別な能力を持っているから、器がその誰かを認めないと能力は使わせてもらえないのだと私は思っています。」
「籠様の器はそのもこもこ枕みたいなの?」
「私の器はちょっと特別の中の特別なので、本当に命も心も持っています。私に与えられた役割をまっとうするために私と共に生きています。」
「やっぱりそれも器だったんだ。」
「はい。」
「その器は姿を変えることができるの?」
「はい。」
「姿を変えることが能力なんですか?」
「いえ、この子の能力は色々あるようで私もすべて把握していません。姿を変えるのは、必要に応じてこの子が判断してやっているようなので私が指示しているわけではないのです。」
「普段はペンダントの形をしているの?」
「あ、はい。元の、本来の姿が何なのかわかりませんが、私とお友達でいてくれているときはクッションのような形をしていることが多くて、それ以外ではペンダントの形で首からぶら下がっています。」
「器ってなんなんでしょうね…。僕、なんかわけわかんなくなってきちゃいました。」
「あー、俺もだ。だけど、それでも構わない。俺の目的は器のすべてを解明することじゃないからね。で、籠様、梨紗の不調の原因になってる器のこととか何かわからないかな?」
「私はこの子については長年ずっと一緒にいるのである程度わかりますが、器そのものについての基本的な知識・概念すらちゃんと把握しているわけではないの。だからいくつかの器を見て、私なりの理解を今も深めているところだから、確定的なことは何も言えない。みんなと一緒。」
「そうだったんですね。でも長年器と一緒にいるから、私たちが知り得ない器のことをもう当たり前のように知っている可能性もありますよ。」
「アップルさんもこれから千年桜と一緒にいれば色んなことが見えますよ。あと、この子の場合、私はあまり器とは認識していなくて、かけがえのない友達、ううん、それ以上に大事な存在だし、明確に生きて私と共に過ごしているから、あまり器として見ていないから、よくわかっていないと思います。」
「うーん。それじゃあやっぱり近道しようとしないで、地道に調べたり、別の器に会ったり、千年桜と仲良くなったりするのが一番なのかなあ。」
「急がば回れ、ということですかね。ところでアップルさん、その子の名前は?」
「え?名前?」
「ないの?」
「名前ってどうするんですか?」
「私が見てきた子たちは大体自分で自分の名前を知っていたの。直接名前は?って聞けば教えてくれることもあるし、そのマスターさんから聞いてもいい。私はいくつかの器とはお話もしたんだけど、輪廻の指輪や千年桜とは今はできそうもない。」
「てことは、俺と梨紗、凛はもっと器と仲良くなれば名前を教えてもらえるようになれるかもしれないってことだ。マスターか、その呼び方カッコいいな。」
「千年桜が名前を教えてくれる…か。ありがとうございます、籠様。」
「ペアは?」
「え?ペアも器持ってるの?」
「あ、みんなに言ってなかったやつか、これ。ごめん。」
「いえ、いいの。私の器はまた少し特殊なの。おそらく不完全で、名前を持っているかも、自覚しているかもわからない。私との親密度とはまた違う問題があるのよね。だから、尚都にはユメカゴに入ってもらうのに効果的なパフォーマンスだと判断して見せたけど、見破られるとは思わずにね、みんなには公言しても半端だからあえて言ってなくて。」
「そうだったんだ。不完全ってのがどうしてわかる?」
「いえ、わからないからおそらく。なんとなく。」
「こういう時のペアには敵わないからこの辺にしとくよ、悪かった。」
「それでも、やっぱり籠様に話を聞いたことでまた器のことが少しわかった気がします。ありがとうございました。」
「いえ、いつもみんな力になってくれているのに、あまり期待に応えられなくてごめんなさい。」
「私は、…私も、諦めない。私の器を見つけることが主目的なわけではないけど、きっとそれは通過点なのだと思うから。」
「はい。器は私が思うより、たくさん眠っているようです。真白ちゃんが仲良くなれる子もきっといると思います。」
「そっかあ。真白の話、私は意外だった。これまでに籠様とその辺りをちゃんと話せてなかったんだと今更思ったよ。ごめんね、真白。」
「ううん、お姉ちゃんのせいじゃない。いつか、いえ、近いうちに力になるよ。」
「俺さ、一度梨紗んとこ寄るよ。梨紗なら指輪と仲良くなってるかもしれない。」
「私一度お話したかったんですけど、お供させてもらうことはできますか?」
「へえ、籠様が?まったく問題ないと思う。どうせだから、突然行ってビックリさせてみるかな。」
「私も行きます。梨紗さんだったら千年桜との向き合い方のヒントをもらえるかもしれない。」
「もちろん僕も行くよ。この力の源泉となる器のことを何か知ってるかもしれない。」
「あら、じゃあ私は遠慮しとこうかな。行きたいけど、あんまり大人数だと迷惑かもしれないから改めてお見舞いに行くわ。」