Grim Saga Project

005 Encounting [PACEWE] Anti Poison Unit

 
 
 
「ひゃっはっは、ようやく気付いたか。」
 
「ようやく気付いたか、じゃありませんよ。妙にことがうまく運ぶことが多いな、ってずっと気になってたんです。」
 
「坊ちゃん嬢ちゃん方、改めましてこんにちは。俺は情報屋こと、鷲尾事務所の鷲尾だ。ラムのプロデュースもしてる。」
 
「つまり。」
 
「この変わったおじさまが。」
 
「ペアの事務所の社長!?」
 
「ああ、私としたことが気付かなかった。」
 
「ラム、だいぶ前に籠のお嬢様を連れて来ただろ。どうすりゃいいか、っつって。それからの付き合いだが、俺はそこまで介入しちゃいねえぜ。」
 
「ええ、でも、おみそれしました。としか言えませんね。籠様をたった一度連れてきたところから、まさか今に至るまで支援してくださっていたなんて…。」
 
「支援なんて大したもんじゃねえよ。俺んとこには情報は集まる。出し先がちょーっと増えた程度、なんのことはない。そんなことより問題は安全性だろ。お前さんたちが首突っ込んでる世界は、平和とは無縁の裏稼業だらけ。ホントに知らねぇうちにこの世から消えてたなんてことがあっても驚かないどころか日常茶飯事だ。」
 
「やはり器の力には金が絡むってことですね?」
 
「まあ、簡単に言やぁそういうことだが、政治・利権、人間の穢れや欲望にヘドが出そうになる事情で溢れてる。お前さんたちみたいに、ピュアに生きてきた若者が耐えられるとは到底思えねぇ。まあ、足を洗えっつっても向こう見ずな年頃だ、やめねぇだろ。ほどほどにしとけよ。」
 
「おじさま、ありがとうございます。私がラムの妹であることもご存知だったんですね。」
 
「ああ、知ってたよ。危なくないようにはしたが、出した情報に嘘はねぇ。んーと、こん中で初めましてはお嬢さんか。炎の魔女、赤石凛さん。以後よろしく。」
 
「よろしくお願いします、鷲尾さん。炎の魔女…、ってなんですか?」
 
「籠のお嬢様、みたいなもんだ。愛称だよ、あだ名っつーか。まあ、俺が勝手に呼んでるだけだ。不本意だろうが事実だろ。ぶち破れ。」
 
「はい。ありがとうございます。」
 
「社長は籠様や器についてどこまで情報を掴んでいますか?それを聞きたくて来ました。」
 
「俺がラムの仲間に協力してた情報屋だってのはもう確認できたわけだしな。」
 
「で、鷲尾さん、どこまで話していただけるんでしょう。もし、まだ鷲尾さんが知らない話を俺たちが持っているのなら、その情報と交換します。」
 
「ほう。兄ちゃん、それで交渉のつもりかい?まだまだだな。」
 
「あれ、なんかこの流れ、どっかで聞いたばっかだな…。」
 
「俺が知り得た情報をすべてここでさらけ出すにはどうすりゃいいと思う?」
 
「うーん、そうだなぁ。私たちを信頼してもらう、とか。」
 
「ひゃっはっは。妹君、やっぱり純粋だなあ。こん中じゃ下手したら、嬢ちゃんが一番ピュアかもしれねぇよ。答えか、それに近いこと言えんのは、まあラムぐらいか。」
 
「そうですね。私なら、多分答えは無、そんな条件はないわ。」
 
「へえ。どうしてペアはそう思うんですか?」
 
「うん、情報を出すというのは、基本的には自分が何かを得るための条件が必要なのだと思う。報酬、地位、情報、色々。全部出した方が得、なんてことはまずない。切り札は先に出した方が負けなの。例えば、私が拷問されている状況で、情報を出さなければ死ぬとしても、きっと全部情報を出した方が得にはならない。その対価は拷問からの解放でしょう。マイナスを消すだけでプラスにはならない。なんにしてもやはり小出しにするでしょうね。全部をいきなり、はない。」
 
「さすがだねぇ。これだから思うように行かないやつは面白い。俺が得するような情報を君たちが持ってたとしても、小出しだね。それに全部出し切ったってのは判断しようがないだろ?俺は嘘だって平気で吐くぜ。ここまでにも嘘を吐いてるかもしれねぇ。少なくとも俺が嘘を吐いてるかどうか知る術が君たちにはない。」
 
「なるほど…。じゃあ全部聞こうとするのは傲慢だとわかりました。私たちが次にすべきこと、次に探すべき、手に入れるべき器について教えていただくことはできますか?」
 
「ほう。炎の魔女。思ったより賢いねぇ。切り替えが早い。」
 
「で、どうなんだい、情報屋さん。」
 
「まあ、そう焦るなよ、兄ちゃん。器についてはいくつか目ぼしいのはあるにはあるが、追っかけて手に入れられそうなのはねぇな。若人たちはそれぞれに目的もあるみてぇだし、まだまだそれぞれの生活をすべきだ。だが、その中に一つだけ近くに転がってる器がある。緑川瞬くん、君の日常生活の近くにある。まあ、人生をハッピーにエンジョイしとけよ。そうすりゃ今まで見えなかったもんが見えるようになるかもな。」
 
「僕の近くに器が…。わかりました。ありがとうございます。やってみます。」
 
「素直だねぇ。これも嘘かもしれねぇんだぜ?」
 
「いえ、この情報はおそらく本当です。嘘を吐くメリットがあるとしたら、鷲尾さんの面目を保つ程度、またはここにいる誰かを危険から遠ざけるぐらいの意味しかないでしょうから。」
 
「はっはっは。若い恋人たちは中々キレるねぇ。ラム、イキのいい仲間が見つかってんじゃねぇか。」
 
「そうですね、社長のおかげです。」
 
「かーっ、コワイコワイ。よく言うぜ。そういうのは俺が見つけてきた仕事をもうちょっと受けてから言って欲しいもんだ。」
 
「え、お姉ちゃん、仕事断ってるの?」
 
「まあね。せっかく社長がたくさん仕事くれるんだけど、1%も引き受けてないかも。」
 
「えー!」
 
「な、これだぜ、参っちまう。」
 
「嘉陵寺のは?」
 
「ありゃあ俺が見つけてきた仕事じゃねぇ。ラムが自分で企画書までこしらえて、自分で作ってきた仕事だ。」
 
「はあ…。」
 
「さて、それじゃあお次は?」
 
「お姉ちゃん、籠様に会わせて。」
 
「いいよ。みんなも行く?」