003 Growing [ACEW] Anti Poison Unit
「ああ、みんな私が姉と姉妹だって知ったのね。」
「とはいえ、俺たちは君たち姉妹を詮索するつもりはないよ。ただ話を聞きたいだけだ。」
「何の話?」
「ええ、グリムの器について。」
「杠尚都さんと緑川瞬くん、貴方たちとまともにお話するのはそれぞれ二回目だし、私にとっても有益でないなら、特に話すことはないわ。」
「真白さんにとって有益というのはどういう内容ですか?」
「もちろんグリムの器について、私が知らない情報を貴方たちが知っているなら、それと交換。または私が器を手にするための情報でもいい。なんなら貴方たちが持っている器と交換でもいい。」
「よし、それじゃあ君にとって有益かどうかわからない以上、曖昧な話をしてもしょうがない。例えばこういうのはどうだろう。俺の指輪を期間限定で使って構わない。それで器の力を見極めていい。」
「え?でもそれって私が返さない可能性だってあるわよ。」
「その場合はペアにどうにかしてもらおう。」
「姉にどうにもできない可能性があるとは考えないの?嘉陵寺での私と姉の振る舞いを見たでしょう。色々あって今の私たちは仲睦まじい姉妹、ってわけではない。」
「一般的な仲睦まじい姉妹ではないように見えても、深い絆では結ばれている。それがこちらの見解だ。」
「もしそうじゃなかったら?」
「その時は私たちが見誤ったのだから仕方がないですね。」
「ふーん。いいわ。試さなくてもいい。面白そうだから、まず話を聞きましょう。二人とも以前とは違うようだし、私は赤石凛さん、貴女にも興味がある。」
「私に?何か私のことを知っていただいて、真白さんの利益になることがありますか?」
「貴方たちユメカゴ自体が器と深い関係を持っているようだし、それに器の力についても私より詳しいでしょう?私は器自体について知っていることは多いかもしれないけど、その力についてはあまり知らないの。」
「指輪をどう使えばいいかもわかんないってことか。」
「ええ。正直まったくわからない。だから、姑息な手段を仕掛けるより、こうして直接ストレートを投げる方が意味があるかなって。」
「じゃあ指輪の力について、まず伝えよう。さらにその力を使えるかどうか試してもらっても構わない。それと交換で話を聞かせてもらいたい。」
「どこまで話すかなんて私の裁量次第になるわよ。」
「下手な駆け引きをするより、なるべく全面的協力体制を構築した方がお互いのためだと思います。なんせ未知のものに関することですし。」
「ふうん。じゃあ試しに指輪を使わせてもらおうかしら。」
「オッケー。どうぞ。使い方は簡単だけど難しいよ。何もしない。」
「は?何もしない、ってどういうこと?」
「他の器でも同様かどうか知らないが、少なくともこの指輪の能力発動条件についてはわからないんだ。もう少し噛み砕いて伝えるなら、必要な時に指輪自身が勝手に発動する。対象は選べない。指輪が判断して、誰かの心を読んで伝えてくる。それがこの指輪の能力みたいだよ。」
「指輪が、勝手に…。それじゃあ私が指輪を持ったところで能力が発揮されないまま終わる可能性もあるのね。」
「はい。だから試してはどうか、と。発動するかどうかは誰にもわかりませんから。」
「そうか。そういうことか。なるほど。わかったわ、ありがとう。この指輪はお返しする。試さなくていいわ。」
「どうして試さなくていいんですか?」
「おそらく発動しないからよ。」
「やってみないでわかるんですか?」
「ええ。貴方たち、この指輪以外に器は持っているの?」
「はい。一つあります。多分。」
「多分って?」
「まだ能力が発動したことがないんです。」
「器かどうか確証が持てない。だから多分ってことね。へえ、面白い。それを見せてもらうことはできるの?」
「真白さんであれば、構いません。」
「貴女が持っているのね。」
「はい。これです。」
「え?」
「嘉陵寺で手に入れたものです。通称、鉄の千年桜。」
「はあ、…参ったわね。知らないフリをしてたら話が進まないってことか。ええ、私もこれを手に入れたくて嘉陵寺の件に関わったの。これは姉にも言わないで欲しいんだけど、…いえ、無駄か。」
「指輪は試さないのに、これは手に入れたかったんですか?」
「これは私の推測も入っているから、確証はないのだけれど。貴方たち、本当に何も隠さず話しているようだから、私も少し情報提供しておく。器は、所有者を選ぶのだと思う。」
「なるほど。つまり、杠さんの指輪は杠さんが使えたからと言って、他の人が使えるわけではない。だから、既に所有者の手元にある指輪は試さないけれど、鉄の千年桜には興味がある。」
「そう。だけどね、鉄の千年桜への興味もほとんどなくなった。まだ発動していないとはいえ、凛さんが持っているということはユメカゴが、つまり籠様や姉がそうしたはず。ということは、貴女にはそれを使える素養、または何らかの要素があるんでしょう。二人のどちらかはそれを知っているのだと思う。」
「器の所有者、というと同時には一人の気がしますが、能力を発動させることができる何かを持っている人間って一人しかいないんでしょうか。」
「うーん、それはわからないな。姉にでも聞いてみたら?」
「指輪で言えば、俺以外にも、厳密には同時ではないけど、直前に使っていた人がいる。だから、おそらく一人には限らないな。」
「その人と貴方に何か共通点は?」
「わからないが、俺の彼女だから、うーん、クサい言い方をしたくはないが、例えば心の距離が近いであるとか、信頼しているとか、そういうことは言えるかもしれない。」
「その彼女が僕の姉なんです。だから、真白さんに話を聞きたいのは、主に器の毒に関することでした。」
「そうだったのね。そうしたらきっと私はこれ以上力になれない。毒については詳しく知らないから。」
「そうですか…。」
「なんだか色々話をさせて申し訳なかったわね。ほかの情報なら考えるけれど。」
「それじゃあ器の毒に関して、知っていそうな人を教えてもらえませんか?」
「一人いるけど、連絡取れないのよね…。」
「あ、それなら俺もいるな。今思い出した。」
「え、杠さんもですか?僕も思い付きました。」
「もしかして、二人とも私と出会うきっかけになった情報屋のことを考えているのだとしたら、私のアテとも同じよ。」
「うーん、誰も連絡方法を知らないってことは、三人とも同じアドレスなり番号を聞いていて、それが使えなくなってるってことだよな…。ほかに誰かいないかな。」
「やっぱりペアに聞くのは?」
「それもいいね。籠様には僕が聞いてみたけど、ペアにはまだ聞いてない。」
「ペアか…。俺は彼女から情報を引き出せる気がしないんだよな。」
「あら、よくわかってるじゃない。私が知る限り、姉は世界最強の女性だと思うわ。」
「世界最強…。」