Grim Saga Project

002 Starting [ACE] Anti Poison Unit

 
 
 
「さて、記念すべきユメカゴ小隊の第一回統一会議だな。」
 
「杠さん、そのユメカゴ小隊って面白いですね。」
 
「私もちょっと考えたよ。小隊名。」
 
「凛ってそんなこと考えるタイプだったんだ。」
 
「え、意外?話の取っ掛かりとしては面白いかな、と思って。あと私は提供できるような情報がないしね。」
 
「うん。じゃあ俺と瞬の情報共有をする前に凛の話を聞こうか。」
 
「はい。小隊名"エース"です。」
 
「なんでエースなの?」
 
「うん。Apple、Cucumber、Eggplantの頭文字でACE。順番は語呂のためだけだから意味はないけど。」
 
「うわ、なるほど、面白い。それなら覚えやすいな。解毒小隊エース。」
 
「よし。じゃあそれで行こう。エースね。俺たちがユメカゴのエース部隊だぜ、って言えるようにならなくちゃな。」
 
「…。」
 
「凛、一歩ずつ行こう。」
 
「うん。」
 
「さて、情報共有っつってもどうするか。まずは器について話すか。」
 
「そうですね。お互いにどこまで知ってるかすり合わせるところからやりましょう。」
 
「そもそも器、ってなに?私は本当に何も知らなくて、邪魔しちゃうかもしれないけど。」
 
「いや、構わないさ。学校でどれだけちゃんと勉強してても得られるような知識や一般的な常識からはかけ離れてる。知らなくて当然だ。」
 
「僕も正直よくわかってはいないんです。」
 
「うん。それじゃ年の功っつーことにして、俺の知る基本情報をまず出しとくよ。器ってのは裏の世界で"グリムの器"と呼ばれるもので、多くは武具なんだそうだ。大小様々、どんだけあるかもわかっていない。グリムの器である条件はただ一つ、古に存在したグリムという名の一族が創ったものであること。どれぐらい昔に生きてたのかもわからないが、そのグリム一族ってのは元々鍛治の家系で、逸品を多数創造した。武具としても素晴らしいが、グリムが生み出したモノには超能力のような不思議な力が宿ったらしい。その力も様々だってことだ。」
 
「グリムの器であることを見分ける方法はあるんでしょうか。」
 
「わからない。刻印があるものもあるというけれど、それは断定的な情報にはならない。一つあるとすりゃ、特殊能力が得られたかどうか。あ、そうだ、もう一つ、所有者との相性が良ければ勝手にわかる。」
 
「どういう意味?」
 
「あ、それなら僕も聞きました、籠様に。これが多分僕の持ってる情報の中ではとっておきです。解毒の方法の回答にも一番近いかもしれない。器の毒というのは、えっと、籠様はたしか、この地の者、と表現していましたが、僕たち人間にとって器は手に余る者なので、手にしてしまうと何らか異常を来してしまったとしても不思議はない。で、仮にそうだとした場合、器と信頼関係を築くか、器に諦めてもらえば、正常に戻るかもしれない、って。」
 
「瞬、それがもし正しけりゃ、梨紗を救えるかもしれない。」
 
「え?え?ちょっと待って、話が見えない。」
 
「あ、ごめんね、凛。僕はその話を聞いて、器って人間みたいだな、って思ったんだ。つまり、器の意思が向いた対象の人間が異常を来している可能性がある。」
 
「器の、意思…?グリムの器には心があるってこと?」
 
「うん。そんじゃ、俺ももう少し話しておこう。梨紗が病に伏せる前に、ほとんど同じ症状で俺が倒れていたのは知っての通りだ。梨紗の異常が器の毒に依るものだとしたら、おそらく俺の時のものも同じ。しかし、俺は治った。つまり、器の興味の対象が俺から梨紗に移った可能性はないだろうか。」
 
「えっと、梨紗さんと杠さんの元に器がある、って意味ですよね。」
 
「うん、これだ。この指輪。」
 
「ああ、姉さんも似たような指輪をしていました。」
 
「そう、対の指輪。一つは我が家に代々伝わる縁結びの指輪だった。もう一つ、今梨紗がつけているものはこの調査を始めてから見つけたもの。見つけたというか指輪同士が引きあったんだと、俺は思ってるけど。」
 
「杠さんと梨紗さんはその器の能力を使えるんですか?」
 
「んー、使えてるかどうかは微妙なんだけど。この対の指輪、輪廻の指輪というらしいんだが、こいつらが勝手に他者の心を読んで俺に伝えてくる。俺の意思とは無関係に勝手にな。これをコントロールしてできるようになったら色々マズイよな。たしかに人の手に余る力だ。そういえばたしかに、梨紗はどうなんだろう。」
 
「なるほど。」
 
「杠さんの経験則として、器の能力や意思などはハッキリわかるものですか?」
 
「それがさ、始めはなんかよくわかんないけど頭に浮かんだ、って感覚だったんだよな。ただ、どうやらもっと明確に反応する場合もあるらしい。」
 
「明確な反応?」
 
「ケースにも依ると思うが、器と会話できるレベルにまでなれるらしい。」
 
「杠さんはまだそうなっていない、と。」
 
「うん。」
 
「でも一つ、杠さんこそが解毒した経験を持つ貴重な事例ですね。エースのエースだ。」
 
「なんだそりゃ、おだててるつもりか?…そういえば、嘉陵寺の時にいた女の子、覚えてるかい?寺の娘の友達だとかいう。」
 
「ああ、真白さんですね。実は僕、あれ以前に一度お会いしてます。」
 
「なんだ瞬もか。実は俺もだ。今梨紗が持ってる指輪を入手した時、彼女と一緒にいた。」
 
「二人ともあの子と会ったの、初めてじゃなかったんだ。そういえば、あの人、真白さんってなんかペアと雰囲気似てない?」
 
「やっぱ女の子にはそういうのわかるもんなのかね。あの子、ペアの妹だよ。」
 
「え。」
 
「えー、嘉陵寺では全然そんな風に振る舞ってなかったのに。」
 
「でも、二人の話を聞くに、真白さんもただ偶然あの場にいたわけではなくて、器絡みだったって気がするな、そうなると。」
 
「指輪の件で会った時、彼女も俺と同じで器や器に纏わる情報を探し求める立場だった。」
 
「瞬は?」
 
「うん、僕も情報探しをしている時に、ユメカゴに入る直前辺りで会ってる。その時は何も知らなかったから相手にもしてもらえなかったんだけど、器の毒という言葉を初めて聞いたのは真白さんからだったし、ユメカゴと関わるきっかけも彼女が作ってくれたようなもの。」
 
「じゃあユメカゴにも関わっている、ってこと?」
 
「いや、なんとなく見聞きしている印象だとそうでもないみたいだな。姉妹の振る舞いが何か特殊っぽいのもそのせいかもしれない。」
 
「エースの次のステップは、詳しい情報を然るべき人から得ることかもしれない。」
 
「真白さんに話を聞いてみる?」
 
「どうやったら会えるかね。」